裏マネの業務。 **

12.赤葦side ページ12

、










「…はぁ？」










一切表情が見えなくても明らかに顔を顰めたんだろうな、と思った。








全く露わにならないその顔と素肌。どうにも興味がそそるけれど、まぁ、多分Aはこの条件を飲まないだろうな。















「……こんな不審者じみた女を良く好きになるよね」






「見た目なんてどうでもいいんだけどな」





「うわ…、ダウト。」















…何で俺が引かれているのか。










この時期でもブレザーとタイツで顔はマスクと分厚いレンズ。唯一見える肌なんて首筋くらい。



確かにAは一見不審者じみている。
















「…見た目が良い女が寄って来る事はあるけど、そういうのは面倒だから俺は好きじゃないよ」




「あっそう。変なの」


















見た目だけの女より、




遥かに中身に興味を持てるAの方を好きになるのは当たり前だろ。












だからこそこの好機は逃せないな、なんて気を張り、Aに対して小さく口の端を上げる。
















「…Aがそんな格好してるのは、白福さん達以外に誰の為？」















分厚いレンズの奥、鋭い瞳が揺れたその時











「それに答える理由は無いでしょ？」















Aが背伸びで顔を近づけて、
くいっ、とマスクを軽く顎まで下げた刹那。











「…ッん、」













─────チュッ、





そんな音を立てて唇に柔らかい感触が触れる。

















「…私からキスしたら見逃してくれる、って言ったからこれで見逃してよ。後、私はやめとけ。」















またスッ…、とマスクを戻し




''好きになるだけ私は無駄だから''




残酷極まりない言葉を残してテニス部の部室を先に立ち去る彼女。
















(…あぁ、馬鹿だな、)














…そんな事しても俺はただ夢中になるだけなのに。









そんな俺の足元にはヒラリ、Aがあれだけ欲しがってたメモが落ちる。……いや、これ取り返しにキスしたんじゃないのか。






それを再度拾い上げて、ふ、と笑みをこぼす。














「……詰めが甘いな。」

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