少女の紡ぐ｛千一夜物語｝〜第6章〜

第二百五十夜 ページ31

空を見れば日は既に高く、雲と雲とが作る青の底で白い光が砕けて頭上に降り注いでいた



だが俺の心中は晴れん



目の前に見覚えのあるタクシーが停車する



「国木田調査員！さあ、早くお乗り下さい」



見覚えの有る運転手がこちらを手招きした



俺達は急ぎ乗り込む



「悪いな、急に頼んで」



「何の何の、探偵社の、国木田調査員の一大事とあらば、たとえ火の中水の中で御座いますよ！さて何と致しましょう、お急ぎで向かわねばならぬ処が有るとか。制限速度ぶっちぎりで急行致しますよ！」



「制限速度は守れ。実は、先だって話した横浜連続失踪事件、あの犯人が判った」



「何ですと！廃病院の報道、僕も拝見しましたよ。亡くなられた被害者の無念如何ばかりか……その犯人の捕縛に向かわれるのですね、合点致しました！ 早くせねば犯人に逃げられる、して、現場は。誘拐の凶行が行われた場所は何処でございましょうや！」



「ここだ」



「は？」



「犯人はお前だ。そして誘拐現場はここ、タクシーの中だ」



「は……何と仰りました？僕には、意味が、何やら」



「考えた。この都会で、人ひとり目立たず誘拐出来るのは誰か。見知らぬ人間でありながら、被害者が何の警戒も無く個室に二人のみと成るのを許す場所は横浜の何処に有るか。ここだ。お前はここで被害者に催眠ガスを嗅がせ、気絶した処を誘拐したのだ。自分は防毒面でガスを防いで」



「いや……いやいやいや、お待ち下さいよ。確か調査では、被害者の方々は自らの足で歩いて何処へともなく消えたと、乗り物に乗った形跡や施設に入った記録も無かったと、そう聞いておりますが。若し被害者が皆このタクシーに乗ったのであれば、通話なり、乗り込む処を誰かが記憶されて居るのでは？」



「そうだ。間違い無く被害者は全員、このタクシーに乗り込んだ。だが市警が幾ら調べても、その記録は出ない。調べる日付を間違えていたからだ。被害者が乗り込んだのは、彼等が失踪した日ではない」



「それは……どういう」



運転手は目を見開いて俺を見つめた

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