救いようのないバカ【佐久早聖臣】 (ページ9)

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第9話ページ9

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「Aってあの佐久早くんと付き合ってる！？」

移動教室の際、クラスメイトにそう尋ねられた。

佐久早聖臣は人気者だ。

「付き合ってない」

「一緒に帰ってるって噂！」

「いや付き合ってないけど」

「えーっ、じゃあ好き？好きなの？」

好きだとは言われたけど、と内心つぶやく。

それに対して私はなんの返事もしていないし、第一佐久早聖臣のようなバカはタイプではない。

「好きじゃない」

「えーっ……あ、」

クラスメイトに突然腕を引かれ、転びそうになる。

顔を上げた先にいたのは、佐久早聖臣だった。

マスクで顔を覆っていても分かる不機嫌さ。

まずいよ、聞かれたんじゃない？とクラスメイトが私の脇腹をつついた。

(とは言っても、聞かれてまずいようなことは話してないはず。)

「佐久早、おはよう」

「…………ああ」

ふい、とすぐに視線を逸らし、廊下を歩いていく。

無口なことにバカは関係ないと結論づけたが、きっと喋ったらバカが露見するから、どっちにしろ無口な方がいいだろう。

そう言えば古森には「和田、懐かれたね」と言われた。

たしかに彼は、私が言ったことに対して忠実だ。

門限を守る少女のように、こくん、と頷く。

でも彼はただ単に言い返す言葉の知識すらないのではないか、と私は思うのだ。

その日の帰り道、「お前は好きじゃない奴とキスするのか」と自転車を漕ぎながら訊かれた。

「高校生なんてそんなもんだよ」

「…………俺は、バカかもしれないが」

佐久早が突然スピードをあげるので、消毒液をたくさん浴びた手で肩を掴んだ。

(今、バカって言った？)

やっと認めたのか、と思ったのも束の間、

「俺の知る限り、人間は好きじゃないとあんなことしない」

と、バカのくせに偉そうに言った。

知識不足だ、バカ。

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