救いようのないバカ【佐久早聖臣】 (ページ20)

今日:4 hit、昨日:2 hit、合計:62,291 hit

/4 ページ20

♢

部活後、彼女の家で彼女と勉強をすることになった。

赤点を取ると追試があるからだ。

「ぼうせんぶまるいちとあるが、このときの……」

「筆者」

「ひっしゃの、……」

「主張」

「しゅちょうとして、ただしいものをすべてえらべ」

歪な発音で、問題文を読み上げる。

本人は至って真剣だが、俺にはどうしても脳内で平仮名に変換されてしまうのだ。

「こういう時は、」

俺が机に身を乗り出すと、顔を上げたAと視線が交わった。

ふい、と問題文に視線を戻した彼女が、

「これ、なんて読むの？」と教材の文章を指さした。

「す」

とうとう平仮名も読めなくなったらしい。

「……これは？」

その小さくて柔らかな手が移動する。

「き」

バカにしてはよく考えた告白だった。

だけど生憎俺には効かない。

「聖臣、すき。好きなの。」

その愛らしい瞳で見つめられ、俺はその次の言葉を聞く前に、唇に噛み付いた。

バカはこうしてやれば黙るのだ。

俺が、お前みたいなバカを好きになる訳ないのに。

俺の幼馴染は、可哀想で、バカな奴だ。

そして、もうこれ以上何も言えないように、ずっと口付けを繰り返してやる。

彼女が俺から目を逸らすまで、ずっと。

♢