第14話 ページ14
♢
そこにいたのは、確か佐久早と同じクラスの女の子だ。
「あっ……ごめん、なさ……」
あわわわ、なんてこっちが心配になるほどの慌てっぷりで、一目散に逃げていった。
佐久早は目を細めて「誰」なんて言っていたけれど、確かあの女の子は口が軽いとかでクラスメイトが愚痴っていた気がする。
(あ、終わった)
きっとキスするところも見たからこその慌てっぷりだろう。
バカだから忘れていたけど、佐久早聖臣は全国的にも有名な男だ。
「今日はお開き、帰るよ」
せっせと片付けをして、昇降口を出て、消毒液を浴びせられ、自転車の荷台に跨る。
次の日、やはり周りからジロジロと見られている気がした。
「噂になってるよ君ら」
「やっぱり？」
古森にそう指摘され、やはりあの女の仕業か、なんて大してダメージを食らっていないが、そんな風に考えてみる。
でも佐久早からしてみれば、いい迷惑だろう。
バレーに支障でもあったらどうするつもりなのか。
「好きだったらアレだけど、私佐久早のこと好きじゃないから」
なぜなら佐久早はバカだから。
私はバカな男はタイプじゃないのだ。
「和田、後ろ」
苦笑いしている古森の視線の先を見やると、佐久早が怖い顔をして立っていた。
「あ、佐久早、私たち噂になってるよ」
「…………知ってる」
バカなのに噂には敏感なのか。
「じゃあ何なのその顔は」
顰められた眉間が、みるみる皺を深めて、
だけど突然、フッと緩んだ。
私はこの顔を知ってる。
何かを諦めた表情だ。
「もう俺に話しかけるな」
(バカのくせに)
(この野郎、もう知らないんだから)
♢
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作者名：小鉢メニュー | 作成日時：2020年5月25日 21時
