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駅を出たときにようやくいつもの歩くペースに戻った
なんだったんだろう
「ごめん、急に歩いちゃって」
『ううん、大丈夫』
ふと気づいた
もしかしたらさっきのが亜嵐のいつものペースだったのかもしれない
だとするといつもは私の歩くペースに合わせてくれていた……?
……隼もそうだった
携帯を買いに行った日、迷子になった日
居酒屋うらつを出てきたときは早足だったのに、私の隣に並んだ途端にゆっくりになった
私に、合わせてくれていたんだ
駅から私の家まではすぐで、もう家の前に着いてしまった
『ありがとう、メリークリスマス』
「うん、メリークリスマス」
私が拍手しながら言うと亜嵐はエアーでクラッカーを鳴らすマネをして言った
かわいいな
「あと、だいぶ早いけど明けましておめでとう
来年もよろしくお願いします」
ぺこりと浅く、でも長くお辞儀をした亜嵐
今どんな表情をしているのかはわからないけど多分笑ってはいない
『うん、こちらこそよろしくお願いします』
私も軽くお辞儀をすると、亜嵐も顔を上げた
不意に、亜嵐の腕が伸びてきて、何度も繋いだその大きな手が私の頰を包んだ
私の涙袋、鼻、唇を親指でなぞってまた頰に手を当てる
少し悲しそうで、でもどこかスッキリしたような顔をしていた
「……じゃあまた」
『うん、またねっ!』
亜嵐が私のほっぺたから手を離して、背を向ける
その亜嵐の背中をいつまでも見ていたらきっと亜嵐は変な気分になるんだろうな
そう思って私は兄の背中から目を離して、カバンから鍵を出してドアの鍵穴にさした
最後にもう一度だけ亜嵐を見て、冷え切ったドアノブに手をかける
開いた先には真っ暗な部屋
今日から、また1人だ
「待って!!」
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作者名:シュガーソルトってい。 | 作成日時:2019年2月27日 21時