5.ここへ、おかえり ページ25
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菱田とは毎日登下校を一緒にするようになった。
そして、菱田は玲王の異変に気づいてからというもの、過保護になったような気がする。何をするにしても、Aの傍で見守っているのだ。そんな日常は、酷く息が詰まりそうだった。菱田は確かに優しい人であるが、このように自由が奪われるのはAにとっては苦痛なのである。
今日もそうだ。コンビニに一人で行った帰り道に、知らない男の人に声をかけられた。それだけで、菱田は怒ってAを詰問する。
正式に交際を始めたわけでもないというのに、未来の婚約者という立場で縛り付けることにより、Aは桎梏を感じさせられていた。
「Aさん、俺が不安なのは分かってくれてる?」
「それは分かってるけど……」
「御影くんだけじゃなくて、他の誰にも君を汚させたくないんだ」
これもそれも、玲王が余計なことを言ったからなのかもしれない。あの時玲王が警告するようなことを放ったせいで、菱田は一層気が立っているようだった。
「分かった。気をつけるから、また明日」
「うん、また明日」
思ってもいないような言葉で軽く菱田を受け流し、家の前まで送り届けられてようやく彼と離れることができた。それだけで、自分は今生きているというのを実感できるような心地になった。
だが、Aにとって気がかりなのは、それだけではなかった。
ここ最近、父の様子がおかしい。
そのことに気づいたのも、玲王がAの家の前にいたその日の翌日辺りからだ。
父は自室に篭もりきりになり、仕事にも行かなくなってしまった。それでも食事を摂らないと生命にも影響を与え始めるので、使用人たちが部屋の前まで届けてくれてはいるものの、それも完食されることはなかった。
母もAも何度か声をかけたが、まともな返事がない。時折、何かをぶつぶつと唱えるような言葉が聞こえてくるだけで、それをこの家で暮らす人々は気味悪がっていた。
「ただいま帰りましたー……」
どうせ、今日も父からの返事はないだろう。それでも一応挨拶を済まして自室へ向かおうとしたその時、突然、父が部屋から飛び出してきたかと思うと、なんとAの足元に擦り寄ってきたのだ。
数日ぶりの父の顔は酷く痩せ細っており、青白い顔をしていた。そんな父は、普段ならば絶対にしないような切羽詰まった表情でAを見上げている。
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黄泉(プロフ) - 七星さん» はじめまして、コメントありがとうございます!またこのお話をお読みくださり、面白いとのお言葉までありがとうございました!🥳 わっかります、むしろ、彼にならどんな手を使っても奪われたいくらいですよね笑 どこかでご縁がありましたら、またお願いします! (2023年2月7日 23時) (レス) id: ead223a600 (このIDを非表示/違反報告)
七星 - とっても面白くて、一気に読んじゃいました.ᐟどんな手を使ってでも玲王くんなら許しちゃうかもです(笑) (2023年2月7日 22時) (レス) @page34 id: 0897eb2537 (このIDを非表示/違反報告)
黄泉(プロフ) - 真昼さん» はじめまして、コメントありがとうございます🙇♀️続きが楽しみだと言って頂けてとても嬉しいです!あと少しで完結になると思いますので、どうぞもうしばらくお付き合いの程よろしくお願いしますm(__)m (2023年2月4日 11時) (レス) id: fe076a4b2d (このIDを非表示/違反報告)
真昼 - 続きが楽しみです! (2023年2月4日 10時) (レス) @page19 id: 94c427d0c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄泉 | 作成日時:2023年1月28日 10時