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「な、なにすんの……!」
「なにって、わかんだろ」
突き飛ばされて背後によろめきながらも、玲王は抑揚のない声をしていた。
「ち、ちがう!玲王は、私が知ってる玲王は、こんなことしない……!」
「それさ、お前の中の幼馴染の俺だろ?」
Aは、優しい玲王しか知らない。
そして、何でも欲しいものは手に入れられて、何でも出来て、みんなから好かれて、天に与えられし才能を持ちながらも、彼はAのことを唯一理解してくれる大切な幼馴染だ。
そんな玲王のことが羨ましくも誇らしくもあったから、幸せになって欲しいと願っていた。だが、Aにはそれを叶えられそうになかった。
「ごめん……でも、私にとって玲王は、やっぱり大切な幼馴染だから」
玲王の端正な顔立ちが、歪んだ。
Aはそんな彼を残し、逃げるようにして教室を出た。
玲王のことは大切で、誰よりも信頼してる。その事実は変わらない。だからこそ、二人の間に生まれた長年の亀裂はやがて大きくなり、今日ついに壊れてしまった。
しかし、玲王との間に傷が生まれてしまったというのに、Aは心の中で加虐心に似た悦楽を微かに覚えていた。
玲王にも、そんな顔が出来たのだと知らなかった。人気者の王子様のお面が剥がれ落ちる瞬間をAだけが知っている。それに、酷く胸が満たされたような心地になった。
昔から玲王を羨み妬み、それでも彼が大切だからずっと傍にいることしか出来なかったAの憎と愛は、知らない間に膨らんで、凶器となっていたのだ。
Aはとっくに限界だった。玲王の傍にいる惨めな自分自身にも、玲王に対して抱いてしまう嫉妬の重さにも。
二人はきっと、初めから交わってはならなかった、とAはそう思う。それでも信頼していた玲王と距離が出来るのも悲しくて______。
名付けようのない感情の嵐に揉まれながら、Aは一人で泣くのだった。傍で慰めてくれる玲王はいない。けれど、惨めになることももうないのだと思うと、心が少しだけ軽くなったような気がした。
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黄泉(プロフ) - 七星さん» はじめまして、コメントありがとうございます!またこのお話をお読みくださり、面白いとのお言葉までありがとうございました!🥳 わっかります、むしろ、彼にならどんな手を使っても奪われたいくらいですよね笑 どこかでご縁がありましたら、またお願いします! (2023年2月7日 23時) (レス) id: ead223a600 (このIDを非表示/違反報告)
七星 - とっても面白くて、一気に読んじゃいました.ᐟどんな手を使ってでも玲王くんなら許しちゃうかもです(笑) (2023年2月7日 22時) (レス) @page34 id: 0897eb2537 (このIDを非表示/違反報告)
黄泉(プロフ) - 真昼さん» はじめまして、コメントありがとうございます🙇♀️続きが楽しみだと言って頂けてとても嬉しいです!あと少しで完結になると思いますので、どうぞもうしばらくお付き合いの程よろしくお願いしますm(__)m (2023年2月4日 11時) (レス) id: fe076a4b2d (このIDを非表示/違反報告)
真昼 - 続きが楽しみです! (2023年2月4日 10時) (レス) @page19 id: 94c427d0c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄泉 | 作成日時:2023年1月28日 10時