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しかし、更にその後、玲王がいなくなった後で仲間を引き連れてきた数人の女子にAは連れ去られ、危うくトイレの便器の中に顔を突っ込まれそうにもなった。もちろん、Aは黙ってやられるような女ではないので、そこまでには至らなかったが。
玲王が善意で助けてくれたことを知っているので、このことは教えていないが、後日「もう助けないでほしい」ということだけは懇願した。玲王はそのことをしっかり守ってくれているのだ。
「にしても、派手にやられたな」
「別に、もう慣れたから」
「泣く?」
「泣かないし」
「寒いだろ、もっと近く寄れよ」
なんだかんだ言いながらも玲王は優しい。
普段優しい言葉をかけてくれるのが玲王しかいないせいか、それだけで泣きそうな衝動が喉元から迫り上がってきて、瞼の裏に熱いものを感じる。焦って、Aは玲王から顔を背けた。
「いい」
「でも、お前」
「いいの!」
声が震えて二の句が継げなくなり、短い言葉でひたすら拒絶だけを示した。それなのに、玲王は黙ったまま頭を優しく撫で続けてくれる。この暖かい手が、昔から何よりもAを安心させてくれるのだった。
「玲王」
「ん?」
「……やっぱり、胸だけ貸して」
「ん」
何も言わずに温もりだけを与えてくれる玲王に、こうして泣きつくのはいつぶりだろうか。
玲王はAと違って、老若男女、男女問わずに好かれていた。容姿端麗、運動神経抜群、頭脳明晰、そして、コミュニケーション能力にも長けており、何をとっても欠陥がない。
そして、玲王は業突く張りなAを何度でも受け止めてくれる。こうして縋れば抱き締めてくれる。Aはその度に、玲王に迷惑をかけているという罪悪感に加え、欠陥だらけの自分自身に嫌気がしていた。
Aには玲王しかいないのに、玲王の周りにはいつでも誰かがいる。玲王の立場を羨望するたびに、自分が惨めな思いをするのが嫌だった。
それだけのことなのに、涙が止まらない。頬を伝い落ちてゆく涙を玲王は嫌な顔一つせず掬ってくれた。だから、嫌いになれなくて彼に甘えてしまってばかりいる。それは切りたくても切れない負の連鎖だった。
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黄泉(プロフ) - 七星さん» はじめまして、コメントありがとうございます!またこのお話をお読みくださり、面白いとのお言葉までありがとうございました!🥳 わっかります、むしろ、彼にならどんな手を使っても奪われたいくらいですよね笑 どこかでご縁がありましたら、またお願いします! (2023年2月7日 23時) (レス) id: ead223a600 (このIDを非表示/違反報告)
七星 - とっても面白くて、一気に読んじゃいました.ᐟどんな手を使ってでも玲王くんなら許しちゃうかもです(笑) (2023年2月7日 22時) (レス) @page34 id: 0897eb2537 (このIDを非表示/違反報告)
黄泉(プロフ) - 真昼さん» はじめまして、コメントありがとうございます🙇♀️続きが楽しみだと言って頂けてとても嬉しいです!あと少しで完結になると思いますので、どうぞもうしばらくお付き合いの程よろしくお願いしますm(__)m (2023年2月4日 11時) (レス) id: fe076a4b2d (このIDを非表示/違反報告)
真昼 - 続きが楽しみです! (2023年2月4日 10時) (レス) @page19 id: 94c427d0c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄泉 | 作成日時:2023年1月28日 10時