輝けない一等星【喜多一番】 ページ1
化身を持った一年生のシードがやって来た頃には、俺はもうそのことに気がついていた。
彼がやって来たのは夏日が眩しい日のことだった。
紫色の髪に合わせた紫の口紅にやたら不健康そうな印象を受けたことを覚えている。一年生だが背も高く、少なくとも俺なんかよりはずっと高くて、俺よりはるかに堂々としていた。実力も伴った、文句のつけようがない選手だった。
その日から隼総は俺たちの練習に加わった。同学年に馴染むのは少し苦手なようでよく一人でいたが、見た目のわりに礼儀正しく言葉遣いもきちんとしていた。年上に媚びることがなく、本当に実力で這い上がった選手なのだと感じた。俺は始めのうちは、隼総が気に入っていた。
しかし俺に深い失望と激しい嫌悪をもたらしたのも、他でもない隼総だった。
「おいシード、お前化身だせるんだろ。やってみろよ」
部員の誰かがそう言ったのが発端だった。誰だか知らないが今となってはあの言葉すら忌まわしい。
「わかりました」
顔を汗で光らせた隼総は、呼吸を整えると、雄叫びと共に化身を繰り出した。
「スゲーッ、初めて見た！」
部員たちが、感激の声を挙げながら次々に隼総に駆け寄る。注目された隼総は珍しく照れていた。
あの場にいた人間の中で俺だけが、隼総に駆け寄れずにいた。
化身は選ばれし者の身に宿るという。大抵、名選手と呼ばれる選手は化身を宿している。木戸川清修の貴志部大河、幻影学園の真帆路正、聖堂山中学の黒裂真命。早ければ一年生のうち、遅くても二年生までには化身をだせるようになると世間では言う。
俺は今まで自分にも化身が宿っているはずだと思っていた。それだけの実力も備えているはずだった。ただ自分は少し覚醒が遅いのだと思い込ませていた........それが隼総によって打ち砕かれた。
隼総の化身を見た途端、俺は自分の中には何も宿されていない事が自分でわかってしまったのだ。空っぽの体に、期待を裏切られた衝撃が、隼総の神々しい姿と引き換えにどっと押し寄せた。
ああ、どんなに努力しても、俺には限界があるのか。
それ以来俺は、かつてそこに化身がいるのだと思っていた胸の内が、ぽっかりと埋められないままになっている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 9人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
涙音(プロフ) - 律果ちゃん！ﾜｰｯｯｯ！！笑まだ新作どれにするか迷い中だよー。律果ちゃんからコメントくるとめっちゃ安心する笑笑ありがとう〜！ (2017年12月3日 16時) (
レス) id: 1a4f25a5d6 (このIDを非表示/違反報告)
律果(プロフ) - なみねちゃーん！ 新作！！！ 書くんですか？！！ ﾜ〜ｯｯ！！ まだ間に合うなら��のやつが好きだよ〜⌒⌒ 理由は……レジジャパが……好きだからです…(懺悔) (2017年12月2日 23時) (レス) id: 78d934a4f5 (このIDを非表示/違反報告)
帰蝶_°? ~kichou°~(プロフ) - 涙音さん» いえいえ！マジですか！やったー！！落ちはてるみんですか！やばいめちゃくちゃ嬉しいです、はい！待ってます！ (2017年12月2日 16時) (レス) id: 28c829f7f7 (このIDを非表示/違反報告)
涙音(プロフ) - 帰蝶_°? ~kichou°~さん» アンケートありがとうございます…………！今のところもう四番書こうと思ってます…………笑笑ちなみに照美さんになりそうです。書いたらこの短編にURL載せるので、もしよかったら覗いてみてくださいね。 (2017年12月1日 23時) (レス) id: 1a4f25a5d6 (このIDを非表示/違反報告)
帰蝶_°? ~kichou°~(プロフ) - 涙音さん» りょーかいです！いつもありがとうございます…！えっと新作のリクの件ですが、私は4番を希望します！理由はですね、単純にフェイ君とてるみんが好きだからです笑笑 あと内容も面白そうでしたので！という理由で希望させて頂きます！ (2017年11月28日 23時) (レス) id: 28c829f7f7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：涙音 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/enkorimatsue/
作成日時：2017年1月5日 22時
