【鬼滅の刃】月明かりに包まれて【男主】

第36話 愚か者 ページ38

頭が霞む。視界も霞む。血を吐いた口の中は鉄の味がする。今までこんなにボロボロにされた事がなくて、体のどこかしこも痛くて苦しくて辛い。
まるで昔、鬼に襲われた時のようだ。片目が無くなりポタポタと血が垂れる中逃げて倒れる。いっその事死んだら楽になれるのにと、あの頃の思いが蘇る。このままだと師匠に殺される。他でもない師匠直々に殺してくれるなら、他の鬼に殺されるより何倍も幸せだ。でも。

『俺はAが師匠を倒すと信じている！』
『僕も、君が倒すと信じている』

――――――竈門くんを、信頼しちゃったからなぁ。

認めよう。彼らとの間に出来たのは信頼関係だ。自分は彼のことを信頼しているし、彼も自分のことを信頼してくれている。
力ではなく、相手を。

｢は、はは･･･｣

口からは笑いが漏れた。ああ、僕はなんて馬鹿なんだ。信頼していないなんて、そんなわけないだろう。彼らと同じ行動をしていて、自分から過去を話し心まで歩んでおいて、信頼していないだと？笑える話だ。それは師匠も教育が活かされていないと怒るのも当然だ。

｢ふん、気でも狂うたか｣

とどめを刺す気だったのだろう。師匠の刀がカチャリと鳴って、師匠が近付く足音が響いた。

｢師匠の、言う通りですね･･･。僕は、愚か者だ｣

呼吸がしにくい。咳き込んで血を吐き出す。痛みを訴える体を動かして立ち上がる。足に上手く力が入らなくてふらふらしてしまったけれど、どうにか倒れないよう踏ん張った。

｢愚か者なので、最後まで足掻きます｣

｢その体で何が出来る。死に損ないめが｣

全く師匠の言う通りだ。自分はいつ倒れてもおかしくない。死に損ない。でも楽になろうとせず、足掻く、強い人間だ。

｢命にかえても、貴方を倒す｣

―――――――月の呼吸 漆ノ型【改】・文月開花

全身の身体の動きを高める呼吸。例え肋が折れていようが、脇腹が抉れていようが、やるしかない。
身体の動きを高める。もっと、もっと、極限まで！！

刀が交わる。師匠の蹴りが折れた肋に直撃した。それでも止めない。

―――――月の呼吸 拾ノ型・神無月舞

｢ぐッ！！｣

師匠が押されている。このまま相討ちで自分も死ぬ。それでいい。

｢舐めるなァァァァ！！｣

――――――宵の呼吸 伍ノ型・小望月白夜

師匠も呼吸を使い反撃。これは恐らく月の呼吸の漆ノ型と同じ原理だ。またもや速さが上がる。

それでもAは知ったことかと攻撃を続けた。
―――竈門くん、約束、守るからね。

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