第32話 血鬼術 ページ34
冷徹と侮蔑の瞳。人間であるAと鬼である師匠、その差を分からせるように顎を掴む手に力が篭っていく。このまま加えられれば顎の骨は折れてしまうだろう。
「なぜ……何故師匠は、鬼なんかになってしまったんですか……?」
師匠は片眉を上げた。聞くほどのことか、と馬鹿にしているように口角が上がる。
「負けると分かっているのに何故人であり続けなければならぬ?」
分かるだろう、と顎を掴む手に力が篭った。ミシミシとしてはいけない音がしている気がする。痛みに顔を歪めると、師匠はまたもや歪に嗤った。
「力でも速さでも敵わない。人とは弱い。それはお主も分かっているだろう。お主は弱かったから仲間も家族も見捨て、一人逃げたのだから」
言葉のナイフが刺さる。師匠の言う通りだ。弱いから一人で逃げた。自分だけでも生き残る道を選んだ。
「だから、鬼になったんですか?鬼の方が強いから?」
「強さを求めて何が悪い」
当然のように返ってきた反応。自分の知っている師匠はもっと思慮深いお方だったはずだ。
「答えは決まったか?」
死か、鬼か。
顎を掴んでいない方の手が刀を構える。先端で喉が少し裂かれたようで痛みが走った。
「死ぬのは、嫌です」
苦痛に顔を歪めながら言葉を紡ぐ。死は嫌だ。誰だって怖いと感じるだろう。ならばここで、鬼となった方が幾分かは長生きできる。
「でも鬼になるのはもっと嫌です、ねっ!!」
今のこの態勢のまま刀を振るう。前振りはなくして必要最低限の動作すら削る。威力重視の攻撃技ではなく、距離を取るための至近距離限定技だ。
さすがに師匠もこれには驚いたようで後ろに飛ぶ。
「さて、二回戦目に突入です。随分休憩できた」
Aは怒っていた。強いからという理由で自分を見捨て鬼となった師匠にも、呼吸を極めたと勘違いしていた馬鹿な自分にも。
そして、拾ノ型の弱点について。
恐らく速さだ。月の呼吸が間に合わないほどだった。ならば避けて攻撃までの動作を少なくすれば、勝機があるかもしれない。
―――――――月の呼吸 拾ノ型・神無月舞
もう一度、それをした上で攻撃を仕掛ける。
―――――――宵の呼吸 参ノ型・三日月演舞
勘を働かせ次の攻撃位置を予測。師匠の攻撃を避けつつ攻撃できるよう体をよく捻った。師匠の体に初めて傷がついた。血がドクドクと流れていく。
だが師匠は嗤っていた。
「勝機が見えるとでも?」
血鬼術―――――花鳥風月
師匠は斬られた部分を自分の刀でさらに刺した。
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埋夜冬(プロフ) - 白澤 晴夜さん» ありがとうございます!考えてくださった設定があるからこその作品です!書かせていただきありがとうございました!これからも頑張るのでどこかの作品でまた会えたら嬉しいです! (2020年3月24日 1時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
白澤 晴夜(プロフ) - 完結おめでとうございます!!とても読み応えのある作品で次の更新はいつかといつもワクワクしながら待ってました!笑 これからも頑張ってください!!応援しております!! (2020年3月24日 1時) (レス) id: 5742d2c832 (このIDを非表示/違反報告)
スノー(プロフ) - 埋夜冬さん» いえいえ、此方こそわざわざ済みません、そうでしたか別物だったのですね、テスト勉強頑張ってくださいこれにて失礼いたします (2019年11月26日 22時) (レス) id: a85ea00e83 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - スノーさん» ごめんなさい!善逸君の名字間違っておりました!すぐに訂正します!指摘ありがとうございます!月の呼吸はフォロワー様から案をいただいたもので、そのフォロワー様もアニメ勢なので別物です。紛らわしくてすみません! (2019年11月26日 22時) (レス) id: 87a5a46f37 (このIDを非表示/違反報告)
スノー(プロフ) - コメント失礼します、善逸の名前ですが確か我が妻と書いて我妻だったような気がします、それとアニメ勢なら知らないのは仕方ありませんが月の呼吸なるものは原作に出ておりその中でも重要な呼吸でして、それとも原作の月の呼吸とは別の物でしょうか?長文失礼します (2019年11月26日 22時) (レス) id: a85ea00e83 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年11月3日 0時