第30話 滑稽 ページ32
体を右に捻る。自分の勘で、後ろの左から何かがくると思ったから。
ヒュンと風を切る音。先程までいたところには刀があった。避けていなかったら心臓を一突きだ。
｢ほう。避けるとはな。勘が前より良くなったか｣
Aはふわりと笑った。褒められたのが嬉しくて仕方ないと言ったような、純粋な子供みたいな笑みだ。
｢貴方が言った通りに過ごしていたんですよ。言ってくれたでしょう、『自分の勘を、疑うな』って。ずっとそうして戦いをくぐり抜けてきたんです｣
姿が見えたので刀を交える。だが顔は先程より子供じみた笑み。褒めて！と期待に満ちて待っているような顔。
ああ、なるほど。
｢お前はあの時から変わっていないのだな。体躯だけが大人になったのか｣
あの時。師匠が鬼になった時。あの歳から彼の中で師匠は師匠のままであるし、A自身の性格も止まっている。
鬼になっているから倒さなきゃいけないのは分かっているけど、彼の中で師匠は変わらず父親代わり。
だから脳が、感情が、いつもぐちゃぐちゃなのだ。師匠は父親代わりのまま変わっていないから。鬼だという事実を本当の意味で理解出来ていないから。
｢ククッ｣
堪らず師匠は笑った。これほどまでに滑稽なことがあるか？助けてもらった恩は憎しみよりも強いだなんて。
狂っている。いや、壊れているのか。
｢馬鹿馬鹿しい。愛のない教育をいつまでも律儀に守り続けているとはな。なぁ、思ったことはないか？あの町を襲わせて、生き残った奴を継子にしようとしていたと。何故お前にあの時の事情を聞かなかったと思う？分かっていたとしたら？｣
なんのことは無い。ただの揺さぶりで、挑発だ。怒りは力をもたらしてくれるが、判断力は鈍る。標的だと集中するからだ。
｢貴方はあの時人間でしょう。そんなこと出来ない｣
｢いや？鬼は意外と単純だ。上手く躱し町があるからと言えばそちらに行く。すでに月の呼吸を扱えていたから、脅すのは簡単だ。1匹を見せしめに殺せばいい｣
そんなことは出来ない、とも言いきれなかった。勝てる気がしない戦いをわざわざやりたがる者はいないだろう。それは鬼とて同じ。町と聞けばすぐさまターゲットはこちらになる。
｢貴方ならやりそうですね。ですが例えそうでも、僕は貴方を恨みませんよ｣
師匠はほう？と片眉を上げる。ずっと火花を散らしていた刀を弾いて距離を取る。
｢目的は町人の敵討ちではありませんから｣
貴方を殺すことですよ、師匠。
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埋夜冬(プロフ) - 白澤 晴夜さん» ありがとうございます！考えてくださった設定があるからこその作品です！書かせていただきありがとうございました！これからも頑張るのでどこかの作品でまた会えたら嬉しいです！ (2020年3月24日 1時) (
レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
白澤 晴夜(プロフ) - 完結おめでとうございます！！とても読み応えのある作品で次の更新はいつかといつもワクワクしながら待ってました！笑 これからも頑張ってください！！応援しております！！ (2020年3月24日 1時) (レス) id: 5742d2c832 (このIDを非表示/違反報告)
スノー(プロフ) - 埋夜冬さん» いえいえ、此方こそわざわざ済みません、そうでしたか別物だったのですね、テスト勉強頑張ってくださいこれにて失礼いたします (2019年11月26日 22時) (レス) id: a85ea00e83 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - スノーさん» ごめんなさい！善逸君の名字間違っておりました！すぐに訂正します！指摘ありがとうございます！月の呼吸はフォロワー様から案をいただいたもので、そのフォロワー様もアニメ勢なので別物です。紛らわしくてすみません！ (2019年11月26日 22時) (レス) id: 87a5a46f37 (このIDを非表示/違反報告)
スノー(プロフ) - コメント失礼します、善逸の名前ですが確か我が妻と書いて我妻だったような気がします、それとアニメ勢なら知らないのは仕方ありませんが月の呼吸なるものは原作に出ておりその中でも重要な呼吸でして、それとも原作の月の呼吸とは別の物でしょうか？長文失礼します (2019年11月26日 22時) (レス) id: a85ea00e83 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：埋夜冬
| 作成日時：2019年11月3日 0時
