第29話 疑うな ページ31
火花が至る所で散っている。師匠の走るスピードにAがついて行き刀を交えているからだ。
累相手に動揺してしまったことで師匠の評価が下がっているなら、今ここで師匠よりも優位に立つことで挽回できる。認めてもらうんだ。昔みたいに「よくやったな」と。楽しみなのだ。師匠が顔を歪め劣勢になる状況が。だから嗤う。師匠の教え通りに。師匠を超えるように。
「おや?師匠は嗤わないのですか?あなたも楽しいでしょう」
師匠の顔が歪む。自分の状況が確かに劣勢であり、教え子に挑発されたことが気に食わない。まさか本当に、ここまで成長が早いとは思っていなかった。片目が見えない彼はその分ハンデが多いはずなのに、階級にしては強く、頭も回る。教えていないはずなのに弱点のカバーも出来ている。師匠としては嬉しいが、自分が今鬼であり、教え子を殺すのであるから、憎たらしいことこの上ない。
「いつから戦闘中によく喋るようになった?注意力が分散しておるぞ」
言いながら脇腹を蹴られる。寸前に気付けたがあまりに速く避けきれなかった。Aは背骨を木に強打し一瞬動きが止まる。師匠がその隙を見逃すはずもなく、首を跳ねるように一閃した。が、Aはそれを避け距離を取る。
主張の激しい蹴られた脇腹を押さえ師匠を見つめる。これが鬼の力か。蹴られたのは一瞬だが、肉が抉れたと感じるほどの痛み。鬼に喰われた人間たちはさぞ痛く苦しかっただろう。
「本気でないのに戦闘を楽しめとはな。そんなふうに教えてはおらん」
「でも内を見せないように笑っていないとなのでしょう?結果的には同じだ。人間は楽しめば笑顔になれる」
宿敵との再会だろうと。父親代わりを殺す瞬間だろうと。死に際だろうと。笑おうと思えば笑えるのだ。
Aは、もう自分の表情が微笑み以外作れそうもないと分かっているから。
「では死を楽しむといい」
――――――宵の呼吸 壱ノ型・新月
師匠が息を吐き出すとともに消えた。姿も気配すらも、何も感じない。
「ッ――――!」
それに、新たな呼吸だと?鬼になってから新たに呼吸を極めたということなのか。確かに師匠は元育手だ。まさか下弦の鬼になっても新たな戦闘方法を創り出しているだなんて。
呼吸は息。下弦の鬼であるから血鬼術も使えるであろう。どこから何を仕掛けてくるか分からない。落ち着け。動くな。息を吸え。酸素を脳へ回せ。考えろ。考えろ!
自分の勘を、疑うな。
貴方のその言葉どおりに。
110人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
埋夜冬(プロフ) - 白澤 晴夜さん» ありがとうございます!考えてくださった設定があるからこその作品です!書かせていただきありがとうございました!これからも頑張るのでどこかの作品でまた会えたら嬉しいです! (2020年3月24日 1時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
白澤 晴夜(プロフ) - 完結おめでとうございます!!とても読み応えのある作品で次の更新はいつかといつもワクワクしながら待ってました!笑 これからも頑張ってください!!応援しております!! (2020年3月24日 1時) (レス) id: 5742d2c832 (このIDを非表示/違反報告)
スノー(プロフ) - 埋夜冬さん» いえいえ、此方こそわざわざ済みません、そうでしたか別物だったのですね、テスト勉強頑張ってくださいこれにて失礼いたします (2019年11月26日 22時) (レス) id: a85ea00e83 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - スノーさん» ごめんなさい!善逸君の名字間違っておりました!すぐに訂正します!指摘ありがとうございます!月の呼吸はフォロワー様から案をいただいたもので、そのフォロワー様もアニメ勢なので別物です。紛らわしくてすみません! (2019年11月26日 22時) (レス) id: 87a5a46f37 (このIDを非表示/違反報告)
スノー(プロフ) - コメント失礼します、善逸の名前ですが確か我が妻と書いて我妻だったような気がします、それとアニメ勢なら知らないのは仕方ありませんが月の呼吸なるものは原作に出ておりその中でも重要な呼吸でして、それとも原作の月の呼吸とは別の物でしょうか?長文失礼します (2019年11月26日 22時) (レス) id: a85ea00e83 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年11月3日 0時