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第12話 かくれんぼ ページ14

藤の家紋の家に着いた。だが誰一人として、Aに話しかける人はいなかった。彼は先程からずっと、あの女鬼が付けていた月の耳飾りを眺めているからだ。悲しそうで、辛そうで、なのに慈しむような目をしている。きっとあれは彼だけの空間で、人が土足で踏み入れていい場所ではない。だからあえて話しかけないでいた。

藤の家紋の家ではお婆さんがいて、炭次郎たちは手厚くもてなされた。しっかりとした食事や布団は久しぶりで、気づけば布団に横になっていた。どうやら伊之助は炭次郎より優位に立ちたくていろいろちょっかいを掛けているようだが、炭次郎の長男力の方が上のようだ。失敗に終わっている姿が微笑ましい。

まだ体が興奮して眠れない皆はとりとめのない話題で話を繋ぐ。気付けば伊之助が鬼殺隊に入った経緯を聞いていた。彼には家族がいないらしい。とても苦労しただろう。

「おい、お前!」

伊之助は横で寝ているAを見た。

「お前はどうして鬼殺隊に入った?」

Aは少し驚いた。もちろん自分にとって悪い思い出だ。話したくないオーラを出していたのだが伊之助には通じなかったらしい。

「……そうだね。君たちには話しておかないといけない」

目を閉じた。ヘドロの中を潜っていくように記憶に入っていく。ずっと隠してきたけれど自分の根底にあるあの時を。

「僕の住んでいた場所は小さな集落でね、そこにいた同い年の子達とかくれんぼをしていたんだ」

その時に鬼が現れた。無力な少年だった自分は隠れた場所から恐怖で出られなかった。物が壊される音。友達の叫び声。悲鳴。人が喰われているであろう音。
―――――逃げなきゃ
そこで初めて体が動いた。同時に、隠れていた部屋に鬼が入っていた。目があってしまったときは体がすくんだ。抜け道を急いで開ける。家は燃えていて炎は感じたことのないほど熱い。鬼はすぐそこまで迫っているのに体がうまく動かない。
逃げなきゃいけないのに!!

「そこでね、屋根ごと崩れてきたんだ」

下敷きになったのは鬼で、自分には崩れた破片が降ってきた。

「見せたことがなかったよね」

起き上がったAは普段隠れている左の髪をあげた。
縫ってある傷と、ブルームーンの色をした義眼。左は全く見えていない。だから髪で隠していた。

「その時の傷なんだ。痛かったけど、別の鬼が近くにいるから逃げ続けた」

苦しかった。痛かった。あの時逃げずに死んでいたらこんなに苦痛ではなかったかもしれない。

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設定タグ:鬼滅の刃 , 男主 , 月の呼吸   
作品ジャンル:アニメ
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埋夜冬(プロフ) - 白澤 晴夜さん» ありがとうございます!考えてくださった設定があるからこその作品です!書かせていただきありがとうございました!これからも頑張るのでどこかの作品でまた会えたら嬉しいです! (2020年3月24日 1時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
白澤 晴夜(プロフ) - 完結おめでとうございます!!とても読み応えのある作品で次の更新はいつかといつもワクワクしながら待ってました!笑 これからも頑張ってください!!応援しております!! (2020年3月24日 1時) (レス) id: 5742d2c832 (このIDを非表示/違反報告)
スノー(プロフ) - 埋夜冬さん» いえいえ、此方こそわざわざ済みません、そうでしたか別物だったのですね、テスト勉強頑張ってくださいこれにて失礼いたします (2019年11月26日 22時) (レス) id: a85ea00e83 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - スノーさん» ごめんなさい!善逸君の名字間違っておりました!すぐに訂正します!指摘ありがとうございます!月の呼吸はフォロワー様から案をいただいたもので、そのフォロワー様もアニメ勢なので別物です。紛らわしくてすみません! (2019年11月26日 22時) (レス) id: 87a5a46f37 (このIDを非表示/違反報告)
スノー(プロフ) - コメント失礼します、善逸の名前ですが確か我が妻と書いて我妻だったような気がします、それとアニメ勢なら知らないのは仕方ありませんが月の呼吸なるものは原作に出ておりその中でも重要な呼吸でして、それとも原作の月の呼吸とは別の物でしょうか?長文失礼します (2019年11月26日 22時) (レス) id: a85ea00e83 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年11月3日 0時

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