二十二頁〜狂い始めた歯車3〜 ページ28
ああ。
黒く渦(うず)巻くモヤモヤとしたこの感情は、いったい何という名を持つのだろう。
結局俺は遠ざかる平助の背をただ見つめる事しかできなかった。
きっとこれこそが、俺(Ω)と平助(β)の違いなんだ。
そう痛感した。
***
『で、結局ボコられたと』
夜、俺は自分の部屋で昼間の出来事を電話で話していた。
相手は一つ年上のいとこ。【黒墨玄夜(くろずみげんや)】だ。
彼はここからだと、車で約2時間ほどかかる小さな田舎町に住んでいる。
その為、学校が別々というのはもちろんの事。
気軽に会いに行ける距離ではないため、直接会うのは盆(ぼん)か正月くらいだ。
しかし彼とは何かと気が合うので、こうして定期的に電話をしているという次第である。
「ほんとバカだよね。危なっかしいのなんのって」
勇猛果敢(ゆうもうかかん)に立ち去った平助だったが、あまり時間がかからないうち、顔を腫(は)らして帰って来た。
なにか秘策でもあるのかと思っていたが、完全にノープランで飛び出したようだ。
今回の事で、剛堂に目をつけられていなければいいのだが。
少々心配である。
だが何故(なぜ)だろう。
彼なら何か起きても、どうにか出来てしまいそうだと漠然(ばくぜん)と感じていた。
『少しは俺の気持ちわかったか?』
「は? 何のこと?」
『お前、昔は今の話の奴みたいにすぐすっ飛んでってただろ』
「そうだっけ?」
『まじかー』
自覚がないのか?
それとも忘れてるだけ?
とブツブツ言ってるがなんの事だかさっぱりだ。
「まじで自覚ねえのかよ」
「まったく」
『見ず知らずの奴であろうが関係なしに、いじめっことか、理不尽とか。お前の中で正義に反するものを見つけるとそのたびに突っ込んでただろ?
そのたびにこっちはヒヤヒヤしてたんだぞ』
「あー……」
何となく思い出してきた。
言われてみれば以前はよく、その事で玄夜に怒られていたような気がする。
確かにグラサンの厳(いか)ついオッサンに絡(から)んだときは、ちょっとヤバかった。
ヤバかったけど何とかなったし、今はもうそんなことしない。
まあ、俺も若かったということだ。
……たった3年前の事だけど。
「昔の話だろ」
『人間の本質はそう簡単に変わらねえよ。
事実今日だってお前はその場を離れるのをためらったんだろ』
「でも、何もしなかった」
そう。
何もしなかったし、何もできなかった。
俺は何も……。
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作者名:フロース | 作成日時:2019年3月4日 19時