ちぐはぐコンビ (ページ41)

今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:30,542 hit

85話生きる理由ページ41

私の頭を駆け巡ったのは走馬灯、と云うのだろうか。今迄の立ってきた死地の時にもそんなものが頭に過ぎった事は無かった。

なのに何故今、判断を鈍らす様な事をしてくるんだろうと思った。駆け寄ってくる沖田を脇目にオールマイトとオール・フォー・ワンの戦いが終わるのを見ていた。

凄まじい爆風が辺りを拭き荒らしたが私の体は宙に浮く事なく抱き寄せられ地面に伏せられた。

「何でィ、其の怪我は。」

大丈夫だと笑う私に疑う様な顔を向けてくる沖田だったが其れ以上何も云わなかった。

暫くしてプロヒーローともに瓦礫の撤去と怪我人の捜索が行われた。

日が空に登り始めた頃、私は救急隊員の手当てに応じず更地になってしまった戦場の真ん中に立っていた。

プロヒーローに引っ張られていった彼奴が私の方に不思議そうに駆け寄ろうとしてくる。

「来るな！！！」

歩み寄る足を止めて目を見開いた沖田。
これ以上近寄ってこないで、これ以上優しくしないで。これ以上思い出を与えないで。

私の、我儘を許して。

＿＿＿＿＿＿

急に叫んだ彼奴の気迫に驚いて足を止めてしまった。

何であの場を離れた、彼奴の言葉を何で信じた、なんでなんで、と頭がしっかりと働いてくれない。

俺は気づいていた筈なのに、何時迄も彼奴の優しさに甘えていた。

ガラス片を首に突き立てる神月を見て、俺は言葉を失った。

「御免ね。御免、私の我儘で彼方の世界に戻るのが遅れた、本当に御免。」

意味がわからない事をつらつらと並べる彼奴を只呆然としてみていた。

「神威が此処に来た時点で分かってた。戻れるんだって。

其れはどちらか一人しか戻れないって事も。戻れなかった一人は忘れられるって事も。

私の我儘で此処まで長引かせて御免。」

「っやめろ！！！」

「私に、生きる理由をくれて、ありがとう。」

首にガラス片を近づけていく神月を俺は必死に走って止めようとした。

手に持っているものを突き刺した彼奴の首は鮮血が溢れ出し空を舞った。

其の儘崩れ落ちる神月の体を抱きとめて俺はその場に座り込んだ。目の淵に涙が溜まっていた。

最期、彼奴は泣きながら笑っていた。

陽の光を浴びてキラキラと一筋の涙が輝いていた。

『陽の光ってどんな感じ？気持ちい？』

彼奴の瞼に俺の涙が落ち、目の淵まで伝って彼奴の涙と混ざった俺の涙が地面に染みを作った。