お前と共に飲む月見酒 ページ35
「土方の旦那さァ、背負い過ぎだと思うよ。」
「はぁ？」
お、やり〜と云って結構値が高かった俺の酒をぐびっと飲み干した。
一息ついたところで此奴は悪びれるわけでも無く、悪戯っ子のように笑うわけでも無く、ずっと無表情だった。
「あんた、上にも下にも優秀なのがいるんじゃん。子供が大人に口出しして悪いと思うけど、
今のあんた誰よりも子供だよ。
誰を頼る訳でも無く一人でがむしゃらに背負ってさ、一人が怖いだけでしょ。」
何もかもを見透かしそうな其奴の目は俺の心を読んでいたかのようだった。
「……ガキが説教垂れてんじゃねェぞコラ。手前も人の事云えねェだろ。」
間を開けて返せた言葉が此れだった。俺の真っ暗な心に再び光が差してきた気がした。
本当に不器用だと我ながら思う。
「……それだけ、んじゃ」
背を向けようとした其奴にちょっと待てと声をかける。
「少しだけ俺に付き合え。」
キョトンとした其奴は俺に神月な、と自分の名前を呼べと云わんばかりにどさりと隣に腰をかけた。
俺は部屋からもう一つのお猪口を持ってきて其れに酒を注いだ。此奴は警察が未成年に酒を進めるなと云うが今更だ。
「お前……神月、手前も結構な不器用だろ。」
「いや？自分は器用ですが何か。」
ピンクを揺らしている頭を小突いて俺は黙って酒を飲む。
隣の神月も黙って酒を飲んでいた。
「おい、其の筒状のは何だ。」
「んえ？あァ、此れね、沖田池田屋の時以来ちゃんとした刀使ってないって聞いたから自分の荷物から引っ張り出してきた。」
其の情報は何処で聞いたのやら。総悟は確かに刀が折れて刀匠に頼み込んでいたが直せず落ち込んでいた。それ以来隊士達に支給される刀しか使っていなかったのだ。
「此れ、前に来た時に作ってもらった刀で自分より沖田に持ってもらった方がいいだろうなと思って持ってきた。」
筒状の黒いものをそっと撫でて目線を俺に移すと預けたからなと強引に刀を押し付けられた。
此奴は色々な武器が使えると知っていたがクナイや銃、刀の他にもヘリに乗れたり宇宙船を操縦できたり有能だった事を知った日には目をひん剥いたのは記憶に新しい。
「そろそろ帰んないと怒られるから…。
沖田に其れ頼んだ。」
手をひらひらと降って歩く其奴の背中は大きいと感じたと同時に哀愁を感じた。
おい万事屋、此奴相当な淋しがりやだぞ。と今頃酒を飲んで泥酔しているか爆睡しているかの野郎に思った。
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作者名：終夜 | 作成日時：2019年1月22日 2時
