第四十七話「ただの説教じゃねぇぞ。ド級の説教、ド説教だ!」 ページ48
眉間に皺を寄せ口をグッと結びこちらを潤んだ目で見つめる、今にも泣き出してしまいそうな表情。呆気に取られて何も言えないでいると、灰原はゆっくりと息を吸うと語気を強めてぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた。
「帰る家があるとか帰りを待つ家族が居るとかそういう事じゃないでしょ?今、ここに居る僕が、僕らが嫌だって、死んでほしくないって言ってるんだよ。なのに勝手に自分が死んじゃっても良いみたいに決めるのは良くないよ」
静かに話す彼の言葉に、思わず姿勢を正して耳を傾ける。一通り喋り尽くすとフーーッ……と彼は長く息を吐き出した。
「もし君が生きて帰ってくる理由に帰る場所が、帰りを待ってくれる人がいるって言うんだったら
僕らが、君の帰りを待つよ」
「……!」
「だから、置いていかないでよ」
その言葉に思わず息を飲んだ。
「置いていくなと、それ、貴方が言いますか?」
灰原の向こうから声が投げかけられる。彼の肩越しに見ると七海が眉間を抑えてため息をついていた。
「な、七海…」
「つい先程私の事を置いて逝こうとしていた癖に」
「うぐ…」
痛いところを突かれた様で、苦い顔をしながら胸を抑える灰原を呆気に取られながら見ていると「貴方も」と七海が視線をこちらに向ける。
「Aも、二度とそんな事言わないように。貴方には我々が居るでしょう」
私には、この世界には、帰る場所も帰りを待つ家族も居ない。
つまり失うものは何も無い、だから自分の命がどうなろうと誰にも関係ない。この戦いで彼の代わりに私が死ねば灰原は助かるし七海は大切な友人を、五条や夏油、硝子さんは後輩を失わずに済む。ハッピーエンドに繋がると、そう思っていた。
だって私は、彼らの“輪”の中には居ないただのモブだから。
だが、
彼らにとっては私も彼らの“輪”の中の一部だと、大切なんだと言う。私を失わないという事の為だけに私の帰りを待つ人、帰る居場所にまでなってくれるというのか。
「…………ハハ」
震えた乾いた笑いが喉奥からか細く漏れた。
小さい声だったにも関わらず聞こえたのか、二人が視線をこちらに向ける。私はゆっくりと二人に視線を向け、へなりと力なく笑った。
「……ありがと」
それを見て二人は満足そうに笑った。
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人造人間名無し号(プロフ) - りり兄さん» ありがとうございます!マイペースに更新していきます! (10月31日 7時) (レス) id: 302ec2dd68 (このIDを非表示/違反報告)
りり兄(プロフ) - 最高です!!まじ応援してます!更新がんばってください…!o(^-^)o (10月30日 14時) (レス) @page37 id: f01e3b9817 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:人造人間名無し号 | 作成日時:2023年8月25日 15時