【呪術廻戦】モブ顔オタクのトリップ話 (ページ45)

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第四十四話「覚醒」ページ45

No side

「……え、？」

状況が読み込めず口から漏れ出た疑問符は、彼女の胸の中に吸い込まれた。
眼前に広がる黒。視界端に飛ぶ鮮血。嗅ぎ慣れた柔軟剤の匂い。

「…………A…ッ？」

灰原の目が捉えたのは、見慣れないニヒルな笑みと奴に噛み千切られ右腕を失った彼女、Aの姿だった。 

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿ッ、ハァッ！！！」

大きく、息を吸う。
どくん、どくんと心臓が喜びを噛み締めるように大きな音を立てて跳ねた。

いき、てる。いきてる。生きてる。
生きてる！！！

「ハァッ、ハァッ、ハァッ………ハハッ…！」

“賭け”に成功した事実に笑いが零れる。とても心地が良い。
生きているという実感が、体の奥底から溢れ出る力が。

いつの間にか飛びかかってきていた呪霊達を軽くいなして祓っていく。その間も溢れ出る喜びが抑えきれず笑いが止まらない。あっという間に呪霊達を一掃すると、状況確認のために周囲を見渡した。どうやらかなり遠くにまで飛ばされた様で、恐らく七海達が応戦しているであろう音が遠方から聞こえる。

今の私なら、あっという間にそこまで跳んで行けるだろう。グッ、と足に呪力を込めると勢いよく走り出した。

「ッ、ハハッ、すっげェ……ッ！」

思わず笑いが込み上がる。それほどまでに自身の肉体の調子が絶好調だったのだ。軽やかに大地を蹴る足は一切の疲れを感じさせない。激しく動いているにも関わらず一切の息切れも無し。まるで自分の体じゃないようだ。

音の出処に近づいて行くと、遠くの方に倒れ込む七海と土地神と交戦する灰原の姿が見えた。良かった、生きてた＿＿＿＿＿いや、安心するのはまだ早い。灰原はずっと一人で戦っていたのだろう、足元がフラフラしているし身体中ボロボロだ。何とかして土地神と二人の距離を離したい。何か、奴の気を引き付けたり足止めさせる方法…………。

その時ふと閃く。

しかし＿＿＿＿＿＿＿＿＿いや、迷っている暇は無い！

私はスケッチブックのページを破り全力で念じて腕に巻き付けた。そして即座に“縛り”を設ける。

自身の利き腕を犠牲に、爆破の威力を底上げする縛りを。

私は再び、灰原に向かって一直線に駆け出した。