第四十三話「覚悟」 ページ44
No side
土煙の立ち篭める中、彼は跪いていた。
全身の至る所が軋み、特に左頬は大きく切り裂かれ流れ出た己の血の匂いが辺りに充満する。
ぜぇ、はぁ、と口から荒い息を零しながら彼、灰原雄は眼前の敵を睨みつけた。
今回の任務は二級案件だった、はずなのだが蓋を開けてみればそれは推定一級の土地神であった。彼ら、二級呪術師では到底敵わない。
満身創痍の肉体に鞭を打ち、よろめきつつ立ち上がりながら灰原は考えていた。
このままでは自分も、同期である七海建人も奴に殺されるだろう。少し前、自分を庇って奴に吹っ飛ばされた彼女は、Aはどうなったのだろうか。しばらく経っても戻ってこないという事は、恐らく“そういう事”なのだろうか。ごめん、自分を庇ってしまったばかりに____。
そこまで思考を巡らせて、今はそれどころでは無いと灰原は首を振る。しかし今の自分達もあと少しもすれば彼女と同じ末路を辿るだろう。
灰原は自分より少し後方に倒れ込む級友、七海をチラリと見た。彼も同様に満身創痍で苦しそうだったが、それでも自分より傷は浅いようだ。うつ伏せで辛そうに呼吸をする七海の姿を見て、灰原はついに覚悟を決めた。
両の拳をギリ、と固く握り締め構え直す。
口端がヒクついて浅い呼吸を繰り返す。
「……ななみ」
普段の彼らしからぬ、震えた、小さな声。
七海はハッと顔を上げる。察してしまったのだろう。駄目だ、なんて、彼もらしからぬ声色で呟く。聞こえているはずなのに、灰原は振り返らずに言葉を拙く続ける。
「僕が、時間を稼ぐから、七海は、山を降りて。それで、補助監督さんにお願いして、応援を呼んで欲しい」
「灰原、ッ」
縋るような七海の声に、決めたばかりの己の覚悟が揺らぐ感覚を覚える。それでも、キツく、拳を握りしめて。ゆっくりと振り返る。ようやく見えた灰原の表情に七海は震えた。
今まで、一度たりとも見た事がない、恐らく今の自分と同じ表情。
焦燥、恐怖、諦観。唯一違うのは彼の顔に宿った、覚悟の色。
「……七海、ッ」
「……やめろ」
ふる、と首を横に振って現実を拒む七海に、彼は口端を引き上げて笑みを作った。その後ろで産土神の口が大きく開いたのが見えた。
「……あとは頼んだ」
「させねェよ」
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人造人間名無し号(プロフ) - りり兄さん» ありがとうございます!マイペースに更新していきます! (10月31日 7時) (レス) id: 302ec2dd68 (このIDを非表示/違反報告)
りり兄(プロフ) - 最高です!!まじ応援してます!更新がんばってください…!o(^-^)o (10月30日 14時) (レス) @page37 id: f01e3b9817 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:人造人間名無し号 | 作成日時:2023年8月25日 15時