第四十二話「奮起」 ページ43
全身を強く打ち付けて肺から息が押し出される。
「っ、か……ァ、」
全然、気配すら分からなかった、気付けなかった。ナイフを構える暇すらも無いほどに速い動き。二級と一級の差、これほどまでとは!
頭がぐわんぐわんして、血の気が引いていく感覚。身体が動かない。視界がモノクロになって、視点が定まらない。上手く息が吸えなくてカヒュッ、カヒュッと喉奥から空気が抜けるような音が聞こえてくる。
そうだ、灰原。灰原を助けなきゃ。このままじゃ灰原が原作と同じ末路を辿ることになる。身体にググ……と力を込めて起き上がろうと奮起する。
動け、動け!灰原を助けるんだろ!?だったら動け!このままだと原作通りになってしまう!何のためにここまで必死に頑張ってきたんだ!何のためにあんな地獄のような鍛錬を積んできたんだ!!頑張れ!動け!動け動け動け動け、動け!!!
「……クソ………ッ」
喉から絞り出したような掠れた音が出る。どれだけ力んでも身体から力が抜けて動けない。目に映る情景の輪郭がぼやけて頬を伝う。悔しい、何で、こんな大事な時に、ッ!
突然、無常にも意識を現実に戻すように左足に激痛が走る。まるで何かに噛みつかれている、ような_____。
「……は?」
視線の先、左足に呪霊がしがみついていた。腹にある大きな口が歯を立てて私の足に齧り付いている。急いで祓おうにも上手く呪力が練れない。必死に体を動かそうと健闘しているうちにも、隠れていたのか呪霊達が集まってきて私の体の至る場所に噛み付いてくる。少しずつ肉がかじり取られて激痛が走り、口からどこか絶叫にも似た嗚咽が漏れ出る。
私、死ぬの……?今まで、あんなに頑張ってきたのに…?
結局誰も救えないまま、死ぬの…?
そんなの、
嫌に決まってんだろ!!!!!!!!
痛みで気が遠のくのを我慢して腕をウエストバッグに伸ばす。その間にも私の体積は削られていく。 ようやくバッグの金具を外すと中からスケッチブックを引き抜いて、急いで折れ目や血がついたりするのを気にせずめくっていく。目的のページを開くと、ところどころ欠けた血まみれの手をバンと置いた。
これから行うのは“賭け”だ。文字通り命を賭けた一回限りの賭け。成功する確率は限りなくゼロに近い。
失敗すれば死ぬ、成功すれば_______。
84人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
人造人間名無し号(プロフ) - りり兄さん» ありがとうございます!マイペースに更新していきます! (10月31日 7時) (レス) id: 302ec2dd68 (このIDを非表示/違反報告)
りり兄(プロフ) - 最高です!!まじ応援してます!更新がんばってください…!o(^-^)o (10月30日 14時) (レス) @page37 id: f01e3b9817 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:人造人間名無し号 | 作成日時:2023年8月25日 15時