第十五話「死の気配」 ページ16
キィキィと縄が軋む音が聞こえる。初めての首吊り死体に思わず呆気に取られて身体が固まった。呼吸が上手くできず、はくはくと打ち上げられた魚のように口が動く。
すると、下に向いている女性の首が、ゆっくりと上へ上がってきた。あ、死体じゃない、これ呪霊だ。初めて見た呪霊とは姿かたちが違い、異形ではなく人間に近しい形を保っている為、最初人間だと勘違いしてしまった。
髪で隠れていた顔が少しずつ見えてくる。剥き出しの歯茎、削り取られた鼻。これ以上見たくないのに、目が釘付けになる。まずい、どうしよう。身体が動かない。
動かなきゃ、動かなきゃ、動かな、
「Aさん!」
七海の声にハッと我に返る。そうだ、やらなきゃ。
ちゃんと戦える事を証明しなくては!
持っていた刀を逆手に構えて中へ飛び込むと、女に対して刃先を向ける。首を完全に上げた女性の目には眼球が入っておらず、空洞が広がっていた。無いはずの奴の視線と私の視線がかち合った。
瞬間奴は激しい金切り声を挙げた。黒板を爪で思いっきり引っ掻いたような、割れたガラスを擦り合わせるような不快な音が辺りに響いて思わず耳を塞ぐ。奴は首に繋がっている縄をボロボロの細い腕で自ら引きちぎり、どちゃ、と音を立てて床に落ちた。そしてすぐさま体制を整え、まるで犬のように四つん這いでこちらに飛びかかってきた。
刀を握りしめて、タイミングを見計らい女性の背中に刺すと、断末魔を上げて後方へ飛び退かれる。刺した程度で消えるような呪霊ではないということか、と次の攻撃を仕掛けようと構えようとしてふと手の中に何も無い事に気付く。飛び退かれた際に刀を抜き損ねて持っていかれてしまったのだと気付いた矢先、女性は再度金切り声をあげながらこちらに飛びかかってきた。
まずい、今の私はあの刀以外にダメージを与える方法がない。しかしその刀は奴の背中。
眼前には奴の顔。涎を撒き散らし、歯抜けの口で叫び声を上げている。ボロボロの枝のような腕を両方ともこちらの首へ伸ばしてきている。まさにホラゲーに出てくる敵キャラだ。
あ、マズった。ヤバい。殺される。
恐怖一色に染まった思考は極限まで高まり、それは一周回って別の色に変わった。
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人造人間名無し号(プロフ) - りり兄さん» ありがとうございます!マイペースに更新していきます! (10月31日 7時) (レス) id: 302ec2dd68 (このIDを非表示/違反報告)
りり兄(プロフ) - 最高です!!まじ応援してます!更新がんばってください…!o(^-^)o (10月30日 14時) (レス) @page37 id: f01e3b9817 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:人造人間名無し号 | 作成日時:2023年8月25日 15時