実.況してみた【実.況者】 (ページ44)

今日:4 hit、昨日:1 hit、合計:19,488 hit

実況44 ページ44

あのあとも、多少は喋ったし何を食べたいかを話したりして買い物を終えた。

自動の開閉ドアを抜けてスーパーから出ると、冷たい風が吹き付ける。

伸びた髪が顔にあたって邪魔くさい。

それよりも、両手に持ったレジ袋には商品がたくさん入っていて重たそうであった。

「ん、持つ。」

「…ありがと。」

小さな会話だったが、温かみを感じるものであった。

*

「ほれ、寒いだろ。入れ入れ。」

「ありがと、持ってもらってごめんね。」

部屋の鍵を開け、先に柳を入れさせる。
丁寧に脱いだ靴を見て、俺も見習ってしっかり整頓させてからリビングへ向かう。

キッチンまで持っていった袋から、手際よくものを取り出して冷蔵庫へ入れていく柳。

その姿をリビングから見ていたが、話はまだかと焦れったいものであった。

「ね、きよ。」

「…？さっきのこと？」

聞くと、作業を止めて頷いた。
明かりのある部屋でよく見ると目は少し腫れていて赤かった。

「…こんなタイミングで言うなんて、変なやつだと思われるってわかってる。

でも、どうしようもなくて…。それにもう会えないかもって思っちゃって。」

俺の方をしっかりと見ていた瞳は揺れ、潤んでくる。
なぜかわからないが、反射的に椅子から立ち上がって柳の方へ歩む。

「…うん。無理、するな。」

「…私、きよのことが…、す、き。」

しん、とした部屋の一角で俺は言葉を発さずに柳を、抱きしめた。

強く、もう離れないようにって。

「…キ、ヨ？」

「わりぃ、暫くこのままでいさせて。」

華奢な体を抱き寄せ柳の首筋に顔を埋める。
柳の髪が、たまに当たってくすぐったい。

俺もだ、って言いたいけど勇気がなくて。とりあえず無言を貫く。

嫌いってわけじゃない、でも…。

でも言わなきゃ、伝わらない。

「…その、柳の気持ち有り難い。

俺も、お前が好き。どうしようもないくらい。こんな拙い言い方ですまねぇけどよ。」

俺が言い終えると、びくりと、柳の頭が動く。

俺は力を弱め、柳と向き合う。

そのときの柳の顔はいつまで経っても忘れられねぇんだろうな。

「…ほんと、に？」

泣きそうで、でも笑顔を保とうとしているその表情が俺の心を締め付けられる。