君影草は微笑む (ページ1)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:243 hit

思案ページ1

石畳の敷かれた街に雪がちらちらと舞う。その様子を自室の窓越しに見た一人の少年はとあることを思い出した。
　それはとても在り来りな言い伝え。

【雪の降る日には街から離れた場所にある森に入ってはならない】

　物心ついた頃から聞かされていたそれに少年はいつも首を捻る。

　──いつもは入ることを許されている森に雪の日だけは入ってはならないのだろうか？

　それは誰もが一度は引っかかるものの、気付けばどこかへ消えているような何気ないもの。けれども少年にとっては大きな疑問だった。
　初めてその疑問を抱いてから早五年ほど経つが、今まで何度考え、何度忘れ、何度思い出したことか数えきれない。答えを求めて大人達へ尋ねても、“危険だから”とはぐらかされる。挙句の果てには、共に思案していた友人達も今ではクラスのマドンナに熱が上がっているようでこちらの話を聞こうともしなくなった。

　……つまるところ、十歳になった今でも解決出来ていないのだ。
　言い伝え関連の記憶と未だに答えを見つけられない自らの不甲斐なさに黒い感情が込上げてくる。胸を詰まらせようとするそれを押し流すため、深く、重く、長いため息を吐き出せば、はたと一つの考えが少年の脳裏をよぎる。

　それは今まで答えを探すために何年も思案し続け、行動してきた少年が決してとろうとしなかった手段。心か頭かは分からないが自分の知らないうちに、尚且つ勝手に禁じ手だと思い込んでいた行動。

「一番これが早いじゃないか!! 何故おれはこの手段をとらなかったんだ……!!」

　必要そうな荷物を小さなルックザックに詰め込んで、少年は喜々として家を飛び出した。ちらほらと見える大人達の横を、路地裏を、塀の上を駆けていく。頬を撫でる風は肌を刺すように冷たく、後ろから聞こえる大人達の怒号に身が竦みそうになるが止まる気配は一切ない。

　大人の制止を振り切ろうとする少年が目指す先は言い伝えの森、ただ一つ。