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時折、スマホから声が漏れてきて。
どうしようもなく泣きたくなった。
ジンギヒョンの声がする。
Aまで韓国語で話すから、とても、久しく耳に届く母国語が、なんとも俺を過去へ引き戻す。
なんで話せるのとか、そんな事どうでもいい。
大丈夫、大丈夫。
俺はもう、終わったから、怖がることなんて何も無い。
失うものも、救われることも。
ただ、ジンギヒョンの声を聞いたら、もっと、聞きたくなった。
キボミの声も、ミノの声も、テミナの声も。
オンマも、ヌナも。
声が聞きたい。
ジョンヒョナ、ジョン、ヒョン。
もう、誰もそうやって、呼んでくれないから。
「すみません、電話。」
首を横に振るのが精一杯で、握っているはずのボールペンの感覚すらしない。
「今のが、海外…韓国に住む友人です。この前会いに来てくれた。」
何度か、浅く呼吸をする。
「ウタさん…？大丈夫ですか？顔色が優れないように、」
Aが、慌てて立ち上がって、俺の後ろに回ってくる。
ゆっくり、落ち着いて息をしようと思うのに、止まらなくて。
喉が、空気の吸いすぎて、乾いて痛む。
握られ手のひらに、小さな手のひらが重なって。
何度も押されるように撫でられる背中。
上体をコタツの机へと倒すようにされて。
「ウタさん？大丈夫ですよ。私の声は聞こえてますね。お返事はしなくていいですから。焦らなくても、大丈夫です。」
重ねられなAの指はは俺の手の甲を、正確な間隔でトントンと叩く。
それを頼りに、ゆっくり、ゆっくり。
「上手です。ゆつくりで大丈夫ですよ。誰も急いてませんから。」
心地いい音を耳に溜めて。
瞳からは生理的な涙が溜まらず、流れていく。
少しずつ落ち着いて。
ボールペンを握る手のひらが開いてくれた。
すかさず、指を絡めるように握ってくれるA。
落ち着いたのが伝わったのか、背中だけではなく、肩や腕や頭を撫でられ。
呼吸のせいではなく、握られた手のひらをきゅ、っと握り返した。
「落ち着いてきましたね。」
するりと離れる背中の温度。
行かないで欲しいのに、行かないでという言葉も出せなくて。
キッチンへと消えた後ろ姿。
慌てて、目の前にあったティッシュで、涙と、涎と、鼻水を拭き取った。
「飴、食べてください。」
じゃらじゃらと手のひらいっぱいに持ってきた飴を、Aがひとつ選んで口に放り込むのを倣って、俺もイチゴ味の飴の包みを開けた。
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作者名：ヨシハラ。 | 作成日時：2019年10月16日 0時
