レンゲソウ (ページ44)

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辛い思いはたくさん、したと思う。
それ以上に、誰かを悲しませたりもした。
何より、傷つけた俺が幸せになるのを、俺自身が良しとしない。
なんだか、似てるね、俺たち。
自分に足枷を嵌めて、自分の首を真綿で締め上げる。
じりじり、と本当の時を待つように。

『そうだなぁ、ぼくたち、だれもいい人が居なかったら一緒に過ごそうか。』

「それもいいですね。仮面夫婦みたいで。」

『かめんなんだ？』

「ふふ、仮面です。誰も愛さない人間と幸せになりたくない人間が。」

『かめんでも、Aさんと一緒なら、楽しそうだね。ごはんも、おいしいし。』

「お口に合ったようで何よりです。」

そろそろ片付けますね、と立ち上がったAの後をまたついて回って。
食器を下げたり洗い物を手伝ったり。
未だにふたりとも寝巻きのままで。
笑いながら各々着替えに一旦別れて。
適当に選んだもこもこしたセーターに袖を通した。
着替え途中に戻ったなら申し訳ないので適当に時間を見計らってリビングへと戻った。
そこにAの姿はなくて、ぐるりと一周部屋を見渡して、外に居るのを見つけて。
囲うように白い煙が浮いていた。
きっちりと着替えられた姿で真ん中に立つA。
濃いめのデニムシャツにグレーのスエット生地のズボン。
ゆるくまとめられたポニーテール。
無造作な後れ毛。
メイクはしていないのか、普段より少し幼く見える。
スタイルのせいか、幼さすらカバーした綺麗さや、大人っぽさがあって。
大人に対して、言う言葉なのかは分からないけれど。

「もこもこ、かわいいです。」

『Aさんも、似合ってる。』

それだけボードに書いて手渡すと、また、笑顔が綻んで。
バタバタと一旦部屋へと戻った。
手にまあるいレンズの伊達メガネを持って戻ると、なんと、すでにかけている…。
考えることがちょっと似ていて、変なときめきみたいなものを感じてしまいそうだ。

「あ、メガネ。似てますね、私のと。」

ボードを手渡してくるA。

『Aさんがこれかけたらにあいそうだな、と思って持ってきたんだけど、戻ってきたらかけてたの。』

「ふ、はは、すみません。かえっこします？」

自分のメガネを取って手を伸ばしてくるA。
交換して、俺のメガネをかけた。
そんなに変わりないデザインのものだから、すんなりと、似合ってる。

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