レンゲソウ (ページ39)

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仕事のことを聞かれた以降、何を聞かれることもなくて。
途中から、持ってきていたお酒を取り出し、飲みながら話していた。
お酒を飲むと煙草が恋しくなるのか、何度か縁側に出て、煙を吐き出している。
帰ってくる度に慣れない香りが鼻腔を擽り、冷えきった空気が入ってきた。

『さむいでしょ。』

「寒いです。こんな思いするなら、辞めればいいんですけどね。」

それは、今の状況だけの事だろうか。
煙草を吸って、寒くなった、事だけ？

「全部、投げ捨てたくて、こっちに来たのに、何一つ捨てる事も出来なくて。みっともなく、縋りついているんです。ださいですよね。」

『ださくない。格好いいよ。』

俺には出来なかったから。
逃げる強さも、Aのように縋る強さも、何もかも、無くて。
捨てられないから、自分を捨てた俺には、何も。
あの時は、もう、色々限界を越えていた。
越えてから、きっとずいぶん長い時間が経っていた。
麻痺したと思っていた感覚はひとつ失う事で全て、一思いに襲ってきたような。
麻痺なんてしてなくて、見ないように感じないように一時的に押し込めていただけなのだろう。
だから、穴が開けば流れてしまう事は必然だったのに。
留める事が、出来なかった。

「明るい日に何話してるんだって感じですね。今年の抱負でも話します？」

『何か、ある？ほうふ。』

「えー…なんでしょう…言っときながら何も考えてませんでした。とりあえずは、一日を大切に。」

『あぁ、うん。いいね。ぼくも、大切にする。』

なんの為に生きてるかは分からないけれど、今は、まだ、生きてることに何も思わないから。
とりあえずは、与えられた日を、大切に。

いつの間にか、Aとは砕けた話し方で言葉を交わして。
とりとめのない事を沢山話した。
初詣どこまで行く？とか、お年玉ちょうだい、なんてふざけた言葉も。

いつか、近いうちに、話せたらいいのに。
本当は歌えるんだ、って。
話せるんだ、って。
久しくまともな声を出ていないから、時間がかかるかもしれないけれど。
Aに、聞いて欲しい。
Aの話も、聞かせて欲しい。
仕事の事だけじゃなく、色んなこと。
学生の頃に好きだった事とか、よく聞いた音楽とか、好きだった人の話とか。

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