レンゲソウ (ページ36)

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ジンギヒョンがこの町までやってきた。
その事実を知った時は心臓が飛び出るほど、驚いた。
思わず、声まで出そうだったし。
どこの国の人？とか、名前はなんて言うの？まで聞き出したから、あれは、間違いなくジンギヒョンだった。
こっちに来てからはニュースも何も見たくなくて、遮断することが多かったから。
年齢よりずいぶん幼く見える姿を前にして、懐かしく感じるくらいに、俺は、生きていた。

数年前のコンサート。
連絡先を渡した俺には連絡なんて来ず、なんでヒョンには連絡したのか、いつ交換したのかなんて、知りはしないけれど。
二泊も共にするのだから、ただならぬ関係なのだろうか。

よかった、元気そうで。

それにしても、何しに来たのだろうか。
それもまた、知る由もないのだけれど。

『ごはん食べてきた？』

「軽く食べました。お正月用にも作ってきたんで明日か、食べきれなかったらまた食べてください。年越しそばはもう少ししたら作りますね。」

仕事も何もない三度目の年末年始。
去年、一昨年はそんな事、思う余裕もなかった。
一昨年に至っては病院で過ごしたっけ。
時の流れとは等しいはずなのに、とても、平等には思えなくて。
振り返れば早かった、と思うのは誰もが一緒かも知れないけれど。
いや、それもまた、人の時によるのだろう。

ひとりで過ごすのに飽きもきていたし、Aの事は一緒に居て楽だと思っていたから、今日も誘ってみた。
過去の事をあまりにも聞いてこなくて、逆に話しても大丈夫なのかと短い月日で思う。
俺が誰かに吐露する事で、声を出し、笑い、過ごせる日々を夢見ているのか。

Aは、俺がジョンヒョンだと知ったら、どうするのだろうか。
特にファンな訳でもない、ただの、隣人程度の彼女が、どう思うのか。
もしかしたら、薄々気づいているのかもしれない。
この心地いい関係が壊れてしまうのか。
ただ、身近な人に、俺が生きている事を知って欲しいのか。
Aの話も、してもらわないといけない。

俺たちはきっと、上辺すらない関係だけれど、なんとなく、お互い傷を負っていきているのだと思う。
何かに遠慮して、怯えて、ひっそりと。
左手の薬指に未だはまるその指輪と、何か関係があるのか。

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