レンゲソウ (ページ23)

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手持ち花火を何個かして、音はないけれど、笑顔で楽しんでくれているようなウタさん。
よかった。夏らしいことが出来て。
特に、風物詩を大切にする訳では無いけれど。

「やっぱりこれ残っちゃいますよね。いや、むしろ残しに行っちゃいますよね。」

すっかり楽しんでしまって、残ったのは線香花火。
これこそが醍醐味な気がするアラサー。
若い子はね打ち上がってるの見ればいいよ、うん。
おばちゃんたちはしっぽり楽しみたいじゃない。

「よし、お願い事しましょう。長く残った方の願いが叶いますよ。」

うんうん、と頷いたウタさんの姿を確認して、ひとつ手渡した。
ライターで火をともして、じいっと小さくなって眺める火種。
パチパチとはじけて、ちらりとウタさんを見ると、優しく微笑んでいる。
なんとなく、その姿が、綺麗だと思った。
笑う時も声はないけれど、手を叩いて大きな口を開けて。
今にも笑い声が聞こえてきそうなのに。
いつか、聞けるといいなぁ、ウタさんの声。

「あー！落ちた！落ちました！」

勝負？は私の勝ち。
ウタさんの願いが何かは分からないけれど。

「私の願いは、ウタさんの願いが叶うこと、です。」

『そんなの、悪いじゃん。Aさんに得がない。』

「いいんですよ。私の今の願いは、ウタさんと花火することだったので！」

『何それ。いつでも出来るのに。』

文面だけだと素っ気ないけれど、優しい顔してるから、ちゃんと伝わってくる。

「ウタさんの願いはなんでした？誰かに言ったら叶わないかもしれませんけど。」

『ぼくも、Aさんの願いがかないますように、って。』

「ふふふ、何、もう、じゃあ、叶いましたね！叶いました、多分！」

結局、誰の願いも叶わなかったのかもしれないし、ふたりの願いは叶ったのかもしれない。

後片付けをして、水と遊び終わった花火を入れたバケツを手にした。

「そろそろ、お暇しますね。戸締りちゃんとしてくださいね。」

『ありがとう。楽しかった。』

「私も楽しかったです。また、しましょうね。冬でも、春でも、いつでも。」

おやすみなさい、と声をかけて、またもや勝手口から後にした。
冬が近づく。
高く感じる空を見上げて。
まだ、日本にもこんなに綺麗に星が見えるここがあるのがなんだか嬉しい。
大好きで、大嫌いな、冬が来る。

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