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「ウタさんお邪魔しまーす。」
Aの事は、言わなかった。
別にバレたわけでもないのだから、いいか、と。
それに、本当にバレたくないのだったら、整形でもなんでもした方が正解だ。
もう、俺は死んでるのだから。
Aとの会話は、Aが買ってきた小さいホワイトボードを使っている。
その方がスマホをいちいち交換するより、隣同士でトークアプリを使うより、うんと近い気がする、というAの持論の元。
日本語の読み書きはこの約二年の間で上達した。多分。
俺たちはそれなりに一緒に過ごして、町にいる数少ない若者として何かと色々買ってでていた。
俺の身の回りの話も少しだけした。
海外で生活していたこと、周囲の大切な人を失ってしまったこと。
てっきり恋人か家族が死んだと思われていそうだけれど、死んだのは俺の方で。
いや、生きてるけれど。
失ったことに変わりはないから。
その話を読みながら、Aは、とても、悲しそうな顔をした。
とても、優しく豊かな人なんだと思う。
それに倣って、Aも話してくれた。
叔母さんが亡くなったからその家を貰ったとか、誕生日は越してきた日だったとか。
海外にもう何年も会っていない友人がいることも。
『いらっしゃい。何か用だった？』
「はい、これ、しません？あ、もしかしてもう今年しちゃいました？」
Aが手に持っていたのは、花火の詰め合わせのようだった。
涼しくなってきた夜にはとても不似合いに見えたけれど、本来花火は夏にしかしてはいけない決まりなど無いのだった、と思い出す。
『今年、してない。ふたり？誰かくる？』
「あ、誘った方が良かったですかね？ふたりきりです。残念ながら。」
声もなく笑うと、安心したように笑ったA。
驚いたことに、Aは俺と同い年だった。
こんなに幼く見えるのに。
それこそ、花火を手に持ってはしゃいでいたら、きっと二十代前半のように見える。
身長も高いし、手足も長いし、顔も整ってるから、きっとモデルだと言われても疑わなかっただろう。
お互い仕事の話はしたくないのか、暗黙のルールのように、話したことはなかった。
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作者名：ヨシハラ。 | 作成日時：2019年10月16日 0時
