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「これでよし、っと……」
ぐーっと伸びをして、
大の字にごろんと寝転がる。
「鬼殺隊員はいつ死ぬかわからない」。
それを前の任務でひどく痛感した。
……合同任務の相手が、わたしのせいで。
だから、わたし──猫屋敷Aは
初めて遺書を書いてみた。
「にゃーん……」
「あ、ごめん。構えてなかったね。おいで〜」
わたしは座り直して、両手を広げる。
すると猫はわたしの胸へ飛びこんでくる。
「ふふ、かーわいいな〜」
数週間前、うちの屋敷に迷い込んだ猫。
毛の色が、わたしの髪色と一緒!
元気で落ち着かない性格までそっくり。
飼い猫ではないみたいで、
「ならわたしが飼おう!」って決意した。
あ、師範には内緒でね。
きっと、負担や迷惑をかけちゃうもの。
出来るだけ長く秘密にしておきたい。
「あ、そうだ。猫、大事な話があるの」
「にゃ?」
「そう。だーいじなはなし」
こてん、と首を傾げる猫に、
わたしは真面目に真剣に向き合う。
「もし……もしもね。わたしが数週間もここに帰ってこなかったら、ね」
努めて明るく話そうとするけれど、
声が震えちゃう。
──やっぱだめだな、わたし。
なーんにも覚悟なんて決めてないじゃん。
「わたしと同居してる男の子、いるでしょ。綺麗で長い黒髪の男の子。その子に──これを、渡してほしいんだ」
「にゃ……にゃ!」
わたしがさっき書いた遺書を見せると、
猫はあまり意味は理解していないらしく
元気よく返事をした。
「大切なものなの。とーってもね」
──死にたくない、って思っている。
人生の4分の1も生きてない。
師範から教われてないこと沢山ある。
同期の子達ともあんまり話せてない。
蜜璃ちゃんとの遊ぶ約束果たせてない。
理由は沢山あるけれど、
大きな大きな理由はひとつなの。
でもそれは、
きっと師範にとって迷惑だから。
"師範"と"継子"。
その関係性は永遠に交わることはない。
「……生まれ変わったら、君みたいに自由でなんにでもなれる、猫になりたいな」
あ、でも猫になっちゃったら
師範とお喋りとか出来ないんだよね。
……それは嫌だなぁ。
「──猫になっても愛してくれますか、か」
わたしは蜜璃ちゃんから借りた
読みかけの本に目を落とした。
望む関係になれなくても、今はいい。
せめて、この日々が長く続きますように。
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ララ - 面白かったです。ドキドキホッとしました。 (4月29日 12時) (レス) @page15 id: c53479bd69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:楪 日織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kasumi88/
作成日時:2023年3月7日 21時