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右の頬に、つうっと何かが伝った。
ぬぐってみれば、
指先がかすかに濡れている。
ぐしゅり、と鼻が詰まる。
熱を持ったかのように身体が熱い。
手に思わず力がこもった。
「……っ、ばか……」
思いのほか真面目なこと書いてさ。
自分だけ言いたいこと言ってさ。
勝手に「迷惑だ」なんて思い込んでさ。
僕、まだ何も言ってないじゃん。
もう言えないじゃん、君に。
ふとした瞬間に、
Aのことを考えちゃうこと。
Aに会えないって思ったら、
胸がズキッと傷んだこと。
「フラッと戻ってくる」って言葉に
ムキになって返してしまったこと。
Aの頼らない性格に
腹を立てたこと。
Aの好きな人について考えたら
ぐっと息が苦しくなったこと。
遺品の整理をしようと思っても
全是やる気が出なかったこと、
全部全部、
「なんで」って思ってた。
そんなの、
たった2文字で解決出来る。
「────好き」
Aのこと考えちゃうのは
Aに会えない事に心が痛むのは
伝えられなかった心残り。
戻ってくるって言葉に苛ついたのは
遺品整理が出来なかったのは
Aの死を認めたくないから。
頼らないことに腹を立てたのは、
僕に頼って欲しいという気持ち。
君の好きな人を考えたくなかったのは
僕が君を好きだから。
なんだ、簡単なことじゃん。
全部Aが「好き」だから。
理解できなかったこの気持ちが
今、すとんと腑に落ちた。
でも、でもさ。
ちょっと遅いよ。
今やっと解ったこの気持ちは
一体どうすればいいの?
代わりの誰かにあげるの?
知らないフリして捨てるの?
──ねえ、ねえってば。
「返事してよ……っ」
視界が揺らぐ。
足元の猫が慌てだすのがわかる。
迷惑なんかじゃないのに。
面倒なんかじゃないのに。
君は伝えるのが遅すぎた。
僕は理解するのが遅すぎた。
「う"────っ」
君の子供みたいに明るい声が。
君のいつも前向きな言葉が。
君の無邪気な眩しい笑顔が。
君の僕よりふたまわり小さな姿が。
ずっと、
ずっと忘れられなくて。
今でも頭の中を飽和している。
「遅すぎるふたりの恋物語」だなんて。
僕たちにお似合いだろうか。
いや、ここはかっこつけてみてさ。
「例え猫でも愛してやるよ」とか、どう?
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ララ - 面白かったです。ドキドキホッとしました。 (4月29日 12時) (レス) @page15 id: c53479bd69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:楪 日織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kasumi88/
作成日時:2023年3月7日 21時