青紫苑 【桃】

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「 …よっ 」

『 おう、あれゆに子と重岡は？ 』



「 今日、こないって 」



金曜日。

明日大会の重岡と、塾の課題が残ってるゆっちゃん。

その二人が来なくて、嬉しいことにバイトで二人きりだった。



わたしがひとりで喜んでる横で、小瀧くんが「つまんな、帰ろう」とか言ってるから、わたしは慌てて引き止める。

『 …わあったわあった 』

「んじゃ帰りな」って更衣室に入っていく小瀧くんの背中を見て、二人で帰れることの嬉しさをぎゅうっと噛み締める。


『 今日はお前と二人かあ 』


なんて仕事に向かう小瀧くんに、わたしもテーブルを素早く拭いてフロアに戻った。


彼のためならなんでも頑張れる、とかJ-POP的なことを思うのは柄じゃないのに、でもそれくらい好きで。
いつになっても忘れられなくて、不思議と会いたくなって、でもわたし以外の女の子と話してるのは見たくない。

自分でもよくわからない気持ちに振り回される。



小瀧くんを想うたび、思い出すゆっちゃんとの姿。
変な期待が崩れ落ち、嫌な妄想が広がる。

苦しくて、息もできないくらい。





深くついたため息は、響いて消えた。

トイレの鏡の向こうのわたしは、泣きそうな顔をしていた。









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