三十四話 にっかりSide ページ41
さあ困った。大変困った。
やあ、僕目線だと久しぶりだね。にっかり青江だよ。
僕は今とても困っている。なんでかって？目の前にいる彼＿＿水心子正秀に、脅しとも言える牽制をかけられているからだ。
彼の実力はわかっている。練度も浅い今の内から、こんなに大きなもの──殺気のことだよ──を向けられる程の刀だ。練度を上げていけば、僕たちを倒すのも造作もないだろう。そんな彼が、敵に回ると言っているんだ。これはもはや宣戦布告だろう。
判断を誤れば、即座に寝返る。彼女……Aちゃんを生かすためなら、政府にも反旗を翻す。
意訳だが、彼はこう言っているのだ。
(これは、本丸だけでなく、政府ですら敵対するという脅し。彼は、それほどの覚悟があって言っている。)
「いやはや、お手上げだね。」
「む。」
「わかった。彼女は僕が責任を持って守ろう。それに、ここまで脅されては僕も敵わない。」
両手を上げ、降参だというポーズをとる。彼を敵に回して勝てないことはよく分かった。流石は勝海舟の刀だ。僕も、ここまでされて否と言うほど愚かではない。彼らの条件を飲む旨を伝え、部屋を出る。
(いやはや、今日は本当にツイてないなぁ。)
元々、様子を見に来ただけだった。先の遠征で少し傷を追ったから、その治療も兼ねて。だが、彼女がいる手入れ部屋の前に来てみれば、中からすすり泣く声が聞こえるのだ。それは驚いた。だが、しばらくして聞こえた慌てたような声のほうが驚いた。
転生者。
(確かに、これが政府にわかればなんとしてでも彼女を強奪するだろう。そんなこと、誰だって拒否するだろう。彼らは特にそういう考えが強い。)
ここまで考えたところで、後ろの気配に気づいた。
「!?」
(今まで気づかずに廊下を歩いてきたのか!?)
今気付くまで、全く気配を感じなかった。僕は大太刀化しているが、ステータスは脇差である僕と同じだ。偵察や気配察知は得意分野だ。なのに気づかなかった。つまり相手は刀剣男士だ。僕らは探り合う必要がないから相手に気づかない。
でも、ここまで大きな敵意を向けられれば話は別だ。
本日2回目の硬直。本当に、今日はツイてないなぁ。
いつもどおりの笑顔になるよう努めて、ゆっくりと首だけ後ろに振り返る。
そこに立っていたのは、肥前忠広だった。
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作者名：鸞鳳 | 作成日時：2019年9月7日 1時
