二十九話 水心子Side ページ35
私は水心子正秀。勝海舟が帯刀していた一振りだ。
本来は水心子正秀が鍛えた刀の集合体として顕現するはずの私は、明確な一振りとして顕現してしまった。その上、私は認識機能に不具合が生じた、所謂亜種というものになってしまった。
だが、正直そんなことどうでもいい。私には、父の弟子(仮)と、元主の関係の刀がいる。その事実だけで十分だ。
そして、今回配属になった本丸の刀は亜種揃い。私のような者でも受け入れられる。いいところだ。
だが、陸奥守を見ればどうだ。
明らかな気の汚れ。既に治癒や清めも行われている。それでいて、目に見えておかしい。
たしかに、気の汚れはあるが、纏う神気がまるで違う。あの幕末のころに出会った、坂本龍馬が帯刀していた陸奥守吉行ではない。
たしかに、あの後大火に呑まれ乱れ刃を無くしたと聞く。だが、それにしても違いすぎる。まったく別のなにか。
まるで、陸奥守の体に、別の魂が宿っているような。
最初、玄関で見た時には気づかなかった。むしろ、認識機能の不具合がいつも通り作用して、坂本龍馬に見えてしまった。私のこれは、関わりがある刀剣にだけ機能するものだ。だから、陸奥守吉行であることに変わりはないのだろう。
それでも、やはり、違う。
だから、私は彼女を訪ねることにした。
彼女は何者なのか。ただの亜種ではないのはわかっていた。彼女は、おそらくブラック本丸から来たという。肥前忠広と南海太郎朝尊が、遠征先で拾ってきたらしい。素性は不明。だが、陸奥守吉行一振りであることはたしか。
謎だ。
皆、彼女が別物であることに気づいていなかった。この本丸に来る前に読んだ資料も頭に入っている。その時から今に至るまでの疑問全て、彼女にぶつける。
そう決めた私は、彼女がいるであろう手入れ部屋に向かって足を進めたのだ。
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作者名：鸞鳳 | 作成日時：2019年9月7日 1時
