〜陛下帰城(３)〜 ページ3
「娘を愛でて、何が悪い。…家族水入らずといこうか」
満足げに口の端を上げ、マントを翻し廊下の真ん中を突き進んでいく背中を追う。彼女は血も繋がってもいない、只の影武者として育てられた余所者の自分を、息子達同様に愛してくれた。それは今も変わらずに。
この国に住む人々は、温かい。兄や姉や、母だ、姉弟だと言ってくれる人達と仲間がいる。そして彼に出会って、今の自分がいる。擽ったいが、甘えさせてくれる彼等を蔑ろには出来ない。だから、多少の意地悪は彼女は許してしまうのだ。
「さあ、ドレスで走って疲れただろう。そこに座るといい。母は、全く疲れていないからな」
『…流石に此処は…』
「あー…可愛い姫。気づかなくてすまない、エスコートするべきだった…」
『す、座るからｯ…』
玉座の間へと入っていけば、そこでまた一悶着。イザナとゼンが立つであろう場所を空けて、そこへ立っていれば、お前は此処だとばかりに王座へと座る羽目になってしまった。
『後でゼンに怒られる…』
「いつもの母の戯れだと、彼奴は分らん男だったか？」
『…いいえ』
「なら、大人しく、たまには…らしくしていなさい」
ふ、っと兄に似た笑みで笑った母に、諦めて座って彼等を待つ事となった。が、予め声を掛けていたのか、数分も待たずして両名揃って玉座の間へとやって来た。
「四人揃うのは久しぶりだな、イザナ、ゼン！あらためて元気そうで何より、私の可愛い王子達」
「「は」」
「ははは！全然可愛くはなかったな。今と変わらず可愛いのは姫、クレアだけだな」
毎度の事だと目を伏せて返事を返すイザナに、大方ではあるが予想のついていたゼンだったが、まさか着飾られ王座に座らされているクレアに、一瞬だけたじろいで見せ
「こうしてこの椅子に座るのも久しぶりだ」
「……座っていません陛下。座っているのはクレアです」
『………ｯ』
「…まあな。この後、何日も何人も客人と会うんだ。その時座るからいい…」
助けてよ、と目線でゼンに言うも、諦めろ、辛抱しろ。と目線を逸らされた。
「何日いようと問題ないのでしょう？昔の話のはずです。陛下の王城にいられない体質は」
「さあ？どうかな？」
クレアの髪を指で梳きながら、イザナの問に笑いながら返すハルト。クレアはクレアで久しぶりの母との交流に満更でもなさそうに見える。ゼンの心情は、複雑であったに違いない。
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作者名：クレア | 作成日時：2023年3月3日 14時
