心の欠片。‐2【短編集】 (ページ42)

今日:44 hit、昨日:31 hit、合計:70,635 hit

・ページ42

.

いつも見せない表情の阿部に、涙が頬を伝った。

こんなにも努力家な彼に、どうして試練を与えたのだろうか？

俺が代わってあげられれば、それ以上のことなんてないのに。

『こんな時にごめん。コンサートにどうにかして出られないかって、マネージャーと相談したんだけど』

元々流す予定だった動画の、ナレーション。

別の方に頼む予定だったところを、阿部に頼もうとメンバーとマネージャーと話し合った。

どうかな、お願いできる？と彼に問う。

阿部は少し悩んでいたけれど、しばらくして。

「それでも、コンサートに参加できたことになるかな？」

『うん。“6人”のステージだから』

少し強張っていた表情が緩み、笑顔を見せてくれた。

彼が書き留めていたノートを受け取り、「これ少しだけど考えたの」と。

『ありがとう、大事にメンバーとやってくるから！阿部も、同じステージに立つんだからな？』

狭い空間で交わした声は、決して消えることはない。

これからもきっと、残り続け、俺らをつないでいくだろう。

fin.

.