心の欠片。【短編集】 (ページ18)

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彼が退院すると聞いた日、病院へ向かった。

あれから彼と連絡先を交換し、連絡を取るようになった。

大学受験に向けて、勉強を頑張っているらしい。

そのプレッシャーもあって、あのような行動に至ったと。

それが全てではないけれど、それもそのひとつだと言っていた。

「“あの時舘さんが救ってくれたから、今の僕があります”」

『“ううん、ただ体が動いただけだよ”』

「“舘さんは、命の恩人”」

笑顔でそう言ってくれる、阿部くん。

最初に会った時と比べて、表情も明るい阿部くん。

あの時、無理にでも腕を引いて、止められてよかった。

この笑顔を見た瞬間、あの時の行動が間違っていなかったと、そう教えてくれた。

笑顔で手を振り、施設に戻っていく阿部くん。

「“舘さん、お久しぶりです。”」

『“久しぶり、元気そうで良かった”』

「“おかげさまで”」

その後、阿部くんとは1ヶ月に何回か会うように。

俺の家に招いて、手料理を振る舞ったことも。

忘れかけていた手話を勉強し、阿部くんと会話をスムーズに行なえるように。

あの時、勇気を出して引き止めてよかった。

ほんの少しの勇気が、今の幸せにつながっていると、強く感じた。

fin.

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