ほんとうは。【音駒】

にじゅうよん ページ25

『ごめん、家まで送ってもらうつもりはなかったんだけど…』


「いや、気にすんな」




さっきの事があっても、明るく振る舞う灰羽

無理をしているようにしか見えないが、正直ありがたかった。


赤く腫れあがっているであろう、自分の目元を見せないように、俯く




『……、送ってくれてありがとう。じゃあ、また明日』



「おう、また明日な！」





見えなくなるまで、こちらに手を振る



見えているか分からないが、Aも小さく手を振った。









　







　









玄関の扉を開く、既に家の明かりはついている

いつもは慣れてしまったせいか、気まずさを感じなくなっていたが


わからない。





異様に心臓の鼓動が速い

破裂してしまいそうで、怖くて息を吐き出すのがやっとで。
喉奥が引き攣り、つばを飲み込むのがつらい





『た、だい、ま。』



震える手で、何とかリビングの扉を開いた

























　







　









　








リビングはいつもと変わらず、静かで人の姿もない。


ほっとしたものの、心のどこかで落胆する自分がいた




そこで何かが変わっていても、自分ではどうしようもないのに





イスに置かれた母の鞄

色も褪せ、使いふるされているのが分かった



使用している本人の姿のようだと思う。


開きっぱなしのジッパーの中を何となしに、覗き込んだ




中には、仕事の予定表、財布、携帯、クレジットカードのまとまった袋など。









　









　









　









『……、これ』




母の貴重品ばかりはいっている、袋を開けると

遠い昔に、私が書いた母への手紙が入れてあった





破られた部分は、テープなどで直されている






唖然とした。


全て破ってばれないように捨てたはずなのに。







今更こんなものが出てくるとは、思いもしなかったのだ。
震える手で、ぼろっちい手紙を見る


色の落ちた便箋に、つたないし字で「母へ」と書いてあった
　




よく見てみたら、所々にシミを見つけた。




汚れかと思って落とそうと試みたが、違うようだ。


拭いてみても、爪で引っかいたりしても落ちない汚れ








よくよく見てみると、ほかの紙切れにもある

いつもは気にしないはずなのに、なぜか、そのしみが何なのかが異様に心に突っかかった。

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