十五夜 ページ15
「______その……何したんだ？」
「可愛いでしょ〜♡元が良かったから頑張っちゃ
った♡」
華やかな笑顔を振り撒いてナースが近づいてきた。その手には新しい妹の手が握られており、恥ずかしそうに下を向いていた。
かわいそうに……ナースたちに色々弄くりまわされたんだろうなあ。
「見違えたぜお嬢……
じゃ、隊長たちのところに行くか。案内しよ
う」
「い、イゾウ……！？」
「あら〜♡」
妹の手を引き、甲板の中心へと歩いていくその姿を見て、俺は目を疑った。何故なら………
____イゾウは子供が"大"の苦手だからだ。
「なにしてんだサッチ、行くぞ」
「あ……ああ………」
自分が置いていかれていることに気づき、急いで二人の後を追った。妹はというと、急な展開についていけず、俺とイゾウとを交互に見ていた。
ﾎﾞｿｯ
「お、おい、イゾウ。お前なんか企んでんじゃね
えだろうな」
「そういえばお嬢、名前なんていうんだ？」
「聞けよ」
いつものイゾウじゃあり得ないくらいに優しい目で見つめている。おかしい。こいつはこんなに爽やかなキャラじゃないはずだ。本当はもっと人を弄くり倒すのが大好きな………
「名前…は、ない……かな」
「「え」」
歩み続けていた歩が止まる。そういえば、一度だって俺は、こいつの名前を呼んだことが無かったような気がする。
「無いから……そうだな。名前、付けてほしい」
ここがなんでもありの海だってこと、忘れるところだった。人も同じで、親の顔を知らない子供もいれば、自分の名前も知らない子供もいる。
いちいちびっくりはしていられない。
「う〜ん……そうだなあ」
俺はその姿全体を眺め、思考を巡らせた。イゾウはといえば、まるで俺のいうことを待っているかのような面持ちだ。この船のルールに従って、
"最初に見つけたやつが決めろ"と言うことだろうか。
イメージカラーは……オレンジってとこか。オレンジ……橙色……橙…………
「あっ、チェンとかどうだ！？」
ポンッと手を叩き、自信満々に答える。イゾウは相変わらずすました顔をしていたが、妹の様子を伺っているようにも見えた。
「チェン……チェンか……うんっ、いいと思う」
ハイライトのなかった瞳に、少しだけ光がさした気がした。気に入ってもらえたようだった。
「だろー？やっぱり、サッチさん天才だなあ」
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作者名：シヲリ | 作成日時：2019年6月19日 22時
