乙女ゲームの世界に入ってしまいました【浦島坂田船】

共通ルート4　約束 ページ5

「ほんまに、さっきはごめんなさい！
怪我、とか無い？ですか？」


どうも敬語慣れしていないようで、少したどたどしく喋る坂田君。

手を合わせてチラリとこちらを不安そうに伺う姿が本当に可愛い。萌えるぞこれは。



「大丈夫だよ、坂田君。
わざわざ来てくれてありがとう」



そう返すと、彼は一瞬険しい顔になり、眉をぴくりと動かした。
しかし、それは本当に一瞬で、瞬きをして次に目を開いた時には先程の可愛らしい表情に戻っていた。

今度はあれ？とでも言いたげに目を丸くしている。



「あれ？俺名前言いましたっけ？」



なるほど、確かに自分の名前を知らない筈の人に呼ばれたら怪訝に思うだろう。
そしてそれで私も思い出したことをそのまま聞く。



「坂田君の方こそ。私が倒れた時、私の名前呼んでたよね？」


「え？あ、ほら、A先輩は可愛い転校生でもう有名やから！」



なんと、下の学年にまで名が知れてしまっているのか。むむむ、悩ましい。ちょっと恥ずかしいではないか。



「…さかたん、実は授業を抜け出したかっただけとちゃいます？」


「うっ」



ぎくり、と坂田君の肩が揺れる。

私達の会話を横で聞いていたセンラ先生からの思わぬ攻撃であった。

センラ先生は坂田君の肩を掴み、保健室の外へ向けてぐいぐいと押す。



「はい、サボりはさっさと教室に戻ってください」


「えー！嫌や！まだ先輩と」



ぴしゃん。
と、坂田君の言葉を遮りセンラ先生がドアを閉めた。
どうやら坂田君は観念したようで、ドアが開かれることはない。

それを確認してから、先生がこちらに近付いてくる。
そして、私の顔の目の前に人差し指を立てる。



「Aちゃん、一つ約束な？」


「は、はい」


「何かあったら真っ先にここに来ること。
センラは、何があってもAちゃんの味方やから、何でも相談してな？」



先生独特の抱擁感。
それに混じる、どこか切なげな微笑み。

このとき、初めて乙女ゲームの主人公ではなく、ただの私として、初めてとくんと胸が鳴った気がした。








「おかえりなさいやせ、お嬢」



学校が終わり帰宅すると、出迎えてくれる志麻さん。
彼は朝と変わらぬどこか安心する笑みを浮かべてこちらに駆け寄る。



「夕飯は19時あたりにできるよう仕込んでますんで、先にお風呂に入ってきてください」



そしてこの人、中々家庭的である。
女子力高いヤクザとか萌えかよ、と思いながらお風呂の準備をすることにした。

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