乙女ゲームの世界に入ってしまいました【浦島坂田船】

うらたルート11　信頼 ページ33

「なんや、えらい大人しいねぇ先輩」


「…坂田君」


「そんなにうらさんのことが大事？」


「坂田君」


「もう僕の名前呼ばんといてくれる？
…それじゃ会話にならんやん」



もう、と息を吐く坂田君。

私は今、坂田君と水族館の裏にある人気の無い場所にいる。

うらた君がお手洗いに行き、離れ離れになった隙に坂田君に腕を引かれた。
彼曰く、うらた君の方にも五十嵐組の人が居るらしい。

私が逆らったら、うらた君がどうなるかわからない、と脅されている。

私が無抵抗を貫き通していると、彼がこちらにゆっくりと歩き出す。



「まぁ会話する必要も無いか！ね、先輩」



一歩ずつ私と坂田君の距離が詰まる。



「じっとしてて下さいねー？」



私は言われた通り全く動かずに立っていた。



「…おやすみ」



坂田君が、にやりと笑った。









「おやすみするんはお前や、ガキが」


「っ！？」


「…御無事ですね、お嬢」


「はい、お陰様で。ありがとうございます、志麻さん」



私にハンカチを当てようとした坂田君を後ろから押さえ込み、こちらに微笑む志麻さん。
志麻さんを睨む坂田君が苦しげに言葉を吐いた。



「なん、でっ…」


「…坂田」


「っ…ヒラ？」



情報屋が、こちらに向かってゆっくりと歩いてきた。

坂田君が、だらりと額から汗を流す。



「…ごめんね、俺、坂田のこと売ったんだよ」


「…売った？」


「坂田に流した情報は、全部荒瀧組の人達で仕組んだこと。このデートも場所も全部。

…坂田もあほだよね。俺がヤクザにGPSを付けられる訳ないじゃん」



坂田君が舌を鳴らした。
その顔は酷く歪んでいる。

作戦の内容は至ってシンプル。
とっても簡単に言うと、私とうらた君だけでこの水族館に来てる、つまり隙だらけだと思わせただけ。


坂田君は、情報屋、ヒラ君を信頼しきっていた。
だから、ヒラ君が坂田君に『志麻さんとセンラ先生にGPSを付けたきたから、彼らの場所を把握できる』と言って嘘の情報を流しても、信じてしまうくらいに。



「くっ、そ…！ぼく、は…」



坂田君は目元に涙を浮かべながら目を閉じる。
志麻さんが、彼の手中のハンカチを奪い口に当てたのだ。



「…センラさんも、
いえ、うらたさんの方も大丈夫ですって」



耳につけたイヤホンマイクでセンラ先生から連絡を受けたのだろう志麻さんが、私に微笑みかける。

力が抜けた私は、安堵のため息をもらした。

うらたルート12　友愛→←うらたルート10　お揃い

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す