うらたルート10 お揃い ページ32
「あ、見てみてうらた君、サメだよサメ!」
「うわ、歯でかっ…こっわぁぁ」
大きなサメを目の前にして、うらた君はちょっと身を強張らせながらも柔らかい微笑みを浮かべていた。
彼がチラリと己の左手を見やる。視線の先にあるのは、うらた君の右手と、それに絡まる私の左手。
指を交互に絡ませる、所謂恋人繋ぎをした手。
お互いの肩は常に触れ合っていて暖かく、お互いの顔を見ようとするとその近さを思い知り頬に熱が集まる。
そんな、恋人同士の休日。
登校中に買い物に行こうと約束をしていた土曜日。
私達は予定を変更し、水族館に来ている。
そう、水族館(偽)デートである。
前に三人で遊びに行った時よりも少し気合を入れてお洒落をして。
それに気付いたうらた君が可愛い、と言ってくれた時は心の底から嬉しく思ってしまった。
「えー…水族館って魚を見るところでしょ。
何で食事にふんだんに魚類使ってんの」
「さかなきゅんが魚の歌?歌うのと一緒だよ」
「共喰いか」
何気無い会話を楽しんで。
まるで、本物の恋人かのように。
行き掛けに買った、お揃いのネックレスを首にかけて。
私はクローバーの形がくり抜かれたデザイン、うらた君はそれにぴったりと収まる緑色の可愛らしいクローバー。
時折水族館の落ち着いた照明に反射して輝くそれらに、私達は確かに幸福感を得ていた。
「なぁ、A。ちょっとだけ、昔話聞いてもらってもいい?」
「うん、いいよ。聞きたい。聞かせて?」
並んでよたよたと歩く二羽のペンギンを眺めながら、うらた君が懐かしむような目をして言う。
「…実は、俺、自分で言うのはちょっとあれだけど、結構女子から好かれてたんだよ。
その中の一人に、俺は恋をした。
そして、付き合った。それまでは良かったんだけど、どれだけ断ってもしつこい女子が多くてさ。
…彼女が、そいつらからいじめにあったんだよ。
俺はそれを知って、止めようとした。
けど、…あいつは。あいつは、『貴方みたいな変な声の人、本当は好きじゃなかったの。遊びだったの』って」
彼はゆっくりと、言葉を繋いでいく。
辛い思い出なのだろう、その声は震えている。
私は、繋いでいる彼の手をぎゅっと強く握った。
「俺のことを、俺の声を好きだって言ってくれてたあいつから、そんなことを言われるなんて思ってなくて。
俺、あいつのことよく考えないで裏切られたって思ってた。
でも、そうじゃないって気付けたんだ」
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雨上がりのcrew(プロフ) - お体に気を付けて更新頑張ってください−!! (2019年8月6日 18時) (レス) id: 11f12a305b (このIDを非表示/違反報告)
羽飛(プロフ) - 彩葉さん» センラーさんにそう言っていただけて、嬉しい限りです!応援に応えられるよう頑張ります、コメントありがとうございました! (2019年5月1日 13時) (レス) id: 188fe56108 (このIDを非表示/違反報告)
彩葉 - 私の推しセンラさんなんですけど、センラ先生最俺にも出ててマジで好きです!引退されるのはとても寂しいですが、最後まで応援させていただきます! (2019年5月1日 12時) (レス) id: ca54fe217e (このIDを非表示/違反報告)
羽飛(プロフ) - 浪音さん» 大変おまたせしました!今の所は引退を考えていますが、寂しいと言っていただけるととても嬉しくも思います。ゆっくりにはなりますが、これからも読んでいただけるならば、頑張って更新します!コメントありがとうございました! (2019年4月11日 17時) (レス) id: 188fe56108 (このIDを非表示/違反報告)
浪音 - 羽飛さんこれ完結したら引退しちゃうんですか...( ´-`)どうでも良い話ですが防音シェアハウスにて暴走中の時から応援してたので少し寂しいです。残りの更新頑張ってください!!応援してます!!! (2019年3月28日 20時) (レス) id: a925fc985a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:羽飛 | 作成日時:2019年1月23日 17時