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あれから何秒経っただろう。
私は顔をあげられない。茜も手を握ったまま何も言わない。時の流れがずいぶん遅く感じる。
花火の余韻ももうなくなって、今はひたすら静寂。
風の音がかすかに聞こえる、それだけだった。
きっと答えはNOなんだろう。
わかっていた。茜にはすきな人がいるって。
でも、伝えたかった。
もう友達としてはいられないけど、仕方ない。
このままここにいても、泣いて迷惑かけるだけだ。
A「…ごめん、忘れて。」
バレているだろうか。震えてる声とか、手とか、涙声になってるのとか。夜だから顔ははっきり見えないはず。泣き顔まで見られちゃうのは、情けないからなんか嫌だ。
とにかくここから立ち去ろうと思って、繋いでいる手を離して立ち上がる。
背を向けて歩き出す。もう、涙は抑えられなかった。
歩き出してすぐ、腕をものすごい強さで掴まれた。
びっくりして振り返った瞬間、茜が飛びつくように私の身体を抱き締めてきた。
え、どういうこと…?
状況がわからなくて何も言えないでいると、茜が私と少し距離をあけて顔を見てきた。
A「っえ、」
茜は泣いていた。号泣だった。立ち去るまでいっさい茜の顔を見ていなかったから気づかなかったけど、綺麗なその顔をぐちゃぐちゃにして、顔も目も真っ赤にしながら泣いていた。
茜「ばかっ」
もう一度、強く抱き締められる。
おそるおそる私もその背に腕をまわした。
あったかい。嗚咽を漏らしながら泣く茜を抱き締めて、私も一緒に泣いた。
しばらくそうしていたら、お互い落ち着いた。
改めて茜を見つめる。
茜「ごめん、突然泣いちゃって。」
A「大丈夫だよ、私も泣いてたし。」
再び沈黙が流れる。
茜「…も、…き。」
A「ん?なんて?」
小声でなにか言っているけど、うまく聞き取れない。
茜「わたし、も、すき。」
今度はすごく鮮明に、クリアに聞こえた。
しっかり私の耳に届く、大好きな声。
また一粒、茜の目から涙がこぼれ落ちた。
その雫が、なによりも美しく見えて、私は頬に手を伸ばした。ゆっくりと指先でその涙を掬う。
やっと私の頭が、その言葉の意味を理解した。
A「守屋茜さん、私と付き合ってください。」
次は震えなかった、しっかり言えた。
茜「はいっ」
涙に濡れながら、くしゃっと笑う茜が、今までで一番可愛かった。
どちらからともなく抱き締め合って、もう一度見つめて、そして、
そっと唇を重ねた。
初めてのキスは、涙の味がした。
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作者名:結冬 -yuto- | 作成日時:2019年1月19日 14時