夢 ページ2
気がつくと夜になっていた。どうやらどっと疲れが出て眠ってしまっていたらしい。
郁田も培養槽の中で揺蕩いながら眠っている。
さっきのことが嘘のようにも感じたが、少し体勢が違うので嘘ではないだろう。嘘だと信じたくない。
寝袋を培養槽にできるだけ寄せて、中に潜り込む。
先ほどまで眠っていたはずなのに、俺はすぐに夢の中へ引きずり込まれた。
「アヌビスさん！ 危ない！」
郁田が俺を脇道へ突き飛ばし、その反動で車道に出る。
次の瞬間郁田は跳ねられて、中を舞って、落ちた。
郁田の骨は全身ほぼ折れていて、通常ではありえない向きに手首が曲がっていた。
「郁田！？ 郁田ー！」
ああ…またこの夢か。
救急車がやってきて、郁田を中へ運んだ。俺も乗り込み、ずっとずっと神に祈った。神が助けてくれないとどこかで知っているはずなのに。
病院に着き、すぐに父の執刀で手術が始まった。
何度も郁田の名と、神の名を呼んだ。
モニターが手術が終わったことを告げる。
手術室から出てきた父に駆け寄り、嗚咽を漏らすように確認する。
「父さん……、郁田は… …郁田は無事なのか！？」
もういい、覚めてくれ！ こんな夢を見せないでくれ！
郁田はもう起きたんだ！ 過去を掘り返す必要は無いだろう！
緑色のぼんやりとした光が目に入り、目が醒めたことを確認した。寝袋で寝てたせいか、それとも夢のせいか、服がぐっしょりと濡れていて、とても気分が悪い。
寝袋から這い出て、培養槽の状態と中を視認する。郁田はまだ寝ているようで、時々「わんわん」「えへへ」などと寝言を言っている。
いつ培養槽から出そうか……。できれば早く出したいのだが、長いこと培養槽の中で眠っていたので免疫が落ちている。今出したら、今度はウィルスで寝込んでしまうだろう。それに、郁田の洋服もないしな。
自室へ服を取りに行ってからシャワーを浴びる。
「……俺も大分筋肉落ちてるな」
郁田が外へ出られるようになったら、一緒にジョギングでもしようかと考えながら服を着た。
わんわん どこ？ あれ？ どこ？
「わんわぁん……」
どこぉ…… わんわぁん……
培養槽の部屋に戻ると、郁田がわんわんと泣いていた。比喩ではなく、言葉でわんわんと。
そういえば昨日からわんわんって言ってるな。あいつ、犬飼ってたっけ？
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あまごいちじく | 作成日時：2016年9月21日 20時
