侍の紅一点 (ページ38)

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過去編16話ページ38

「フン。自分の才を振りかざすだけの者が、経験を積み上げた者に勝てる道理などありはしないのだ」

三重高校の監督がどこか不安定なAを見て、愉快そうに呟く

「それに…ギアを上げて抑えても、所詮は一次的なもの。ガス欠になった所を叩いてお終いだ」

Aが力を上げても、それを認めずに余裕の姿勢を崩さない

「無駄に突出した輩や上に従えない選手など、ウチ…いや、野球界には必要ない」

三重高校は東海地区屈指の名門校である為、東海、時には全国から有望な選手が集まる

そういった選手達にまず教える事は、選手とは兵士であり、上の命令を忠実にこなさなくてはならないという物だ

その為に、1年目は試合には一切出さずに基礎練を徹底的に行わせ、弱点をなくして自身の言うようなフォームも身に付けさせる

2年目の夏にはそれを馴染ませていき、馴染みが早い選手はベンチ入りさせ、経験も積ませる

そして2年の秋から3年の夏にかけて、積み上げた基礎の集大成を披露する

勿論、シニアやボーイズのエースや4番の中にはこの方針に不満を持つものは多々いるが、説得できそうな者は説得し、そうでない者は部から去って貰う。仮に追い出した選手の実力が三重高校を脅かしそうでも、規定によるブランクで最終的には脅威にはなりえないという感じであった

「黒宮さん。君の力は不本意ながら認めよう。だが年の差というのは、想像以上のものだ。それに男女の身体格差もある。今日はその事を身に染みて貰おうか」

三重高校監督は、嘗てAをスカウトした際に手酷く断られた事を根に持っており、また"坊主憎けりゃ袈裟まで憎い"の理論で大阪桐蔭のレギュラー1年生の事も嫌うようになっていた

その事は選手達にも伝わっており、三重高校の敵愾心はこれが理由であった

「さあ、我が校の忠実なる兵士達よ。派手な動きは必要ない。真綿で首を絞めるように追い詰めていき、二度と全国制覇などと言う夢を口に出来ないようにしてやりなさい」

三重高校監督は邪悪な笑みを浮かべた

5回が始まる前、蓮は1年生を集める

「ビハインドの理由はたった一つ…打線だ」

個人技が重要視されるサッカーなどとは違い、野球は自身の役割がハッキリ定められている

その為、噛み合わなければ点が取れなくなるものだった

「俺達にアピールの必要はねぇ。故にだ…俺達だけでもAを絶対的な王として、俺らはそれを支えるというスタイルで戦わねぇか」

それは、大阪桐蔭のスタイルの変更であった