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「良かったな、今年も神崎と同じクラスで」


泣き言でも言っているのだろう。机に突っ伏して友人である槙野に背中を擦られている神崎を眺めていると、同じ野球部の倉持洋一が俺の前の席にどかりと腰を下ろす。そして、俺の視線の先にいる彼女を一瞥して、からかうようにそう言い放った。


「まあ、あっちはそうでもないみたいだけどな」
「御幸、お前いい加減にしねえとマジで嫌われんぞ」
「仕方ねえじゃん。好きな子には意地悪したくなるタイプなの、俺は」


そう、俺は神崎露へ密かに想いを寄せている。しかし、これまで女子に告白されることはあれど、野球一筋だった俺はまともに恋愛というものをしたことがなく、元々の性格も相俟って彼女の前ではいつも茶化すような態度になってしまうが、まあこれも一種の牽制である。誰にも獲られないように。俺だけを見てほしい。その一心で一年の頃からずっと彼女にアプローチを図ってきた。どう思われようが、彼女の心の中に俺という存在が少しでも引っかかっていてほしい。まあ、あの超鈍感には1ミリも届いてないんだろうけど。


「そう言う倉持くんはどうなんだよ、槙野と」
「何でそこで槙野の名前が出てくるんだよ」
「いや、ちょうどこっち見てるから」


何故か顔を赤く染めてこちらを見つめている彼女を顎で示すと、その隣で大量のポッキーを咥えた神崎と目が合った。へらりと笑ってみせると、じと目で返される。それが何だか可愛くて、思わず吹き出してしまった。
こういった一つ一つの表情や仕草を、また一年間見ることができるのかと思うと素直に嬉しい。そして、今年はどうか、想いが通じて付き合うことができたら。そんなことを願ってしまう。


「もうすぐ始業式だから廊下並べよー」


彼女が捧げた二千円は俺にとっては決して無駄金ではなかった。神様ありがとう、と合掌していると、担任の声が教室に響き渡る。俺は席を立ち、ぞろぞろと廊下へ向かう群衆の中に交ざっていく彼女の小さな背中に声を掛けた。


「神崎、さっき槙野と何話してたの」
「御幸と一緒のクラスで死にそうって話」
「俺は嬉しいけど」
「そりゃそうだろうね、おもちゃがいるんだから」
「本当捻くれてるよな、お前」
「御幸がそうしたんだよ」


責任取れ、と彼女のしなやかな指が俺の耳を引っ張る。道程は果てしなく遠いだろうけど、今はこんなスキンシップでさえも嬉しいと思ってしまう自分がいて。これから始まる愛おしい日々に、俺は顔を綻ばせた。

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作者名: | 作成日時:2023年6月20日 21時

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