静寂 second【名探偵コナン】 (ページ21)

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第７０話ページ21

「狙いをひとつにする…。派手に動いてもらうわ…。」

瞬時にその言葉の意味を理解した。

囮になれば良いのだ。

差し出された左手を右手で握りしめた。そして彼女の願い通り駆け出した。

きっと彼女は知っていたのだ。キュラソーに与えられたもうひとつの任務を。

ガリアーノを戦闘不能にしろ。

もしそれができないならば、殺してしまっても構わない。そんな任務だ。本当に忘れてしまいたかった。

右手に感じる少し冷たい手を手離すべきだとわかっている。手離せば、彼女が助かる可能性が高くなることくらいわかっている。

だが、自分には予測不可能な行動をする人だ。

そんな風に自分の知らないところで死なれるくらいなら、この手を引いて助ける道を探してやろう。

飛びかけたキュラソーを引き戻し、柱の影に隠れた。壁にガリアーノがもたれ掛かり、その腕でキュラソーを幼子を抱くようにかかえこんだ。

キュ「どういうつもり…？」

気づけば、機関銃の音は消えていた。

しぃっとジェスチャーで伝えられた。

「ジン…どういうつもり？…わたしまでキュラソーとともに消してしまうつもりなの？」

どこに隠し持っていたのだろう。インカムに向かって話している。

「あらそう…。勝手になさい…。」

プチっと通信をきった彼女の呼吸は、僅かだが確かに乱れていた。耳元で聞こえるその音を確かめようと身じろぎする。

「動かないで…。見つかる…。」

ジンたちは、キュラソーを殺してしまうつもりだ。やっと、あいつらからキュラソーの熱を隠せたのだ。これ以上動かれては、バレてしまう。

そう簡単に説明された。

凄まじい音がした。子供たちが乗っている方の車輪が、崩れ落ちた。

「これが最期の情けよ……。したいことをすれば良い…。」

口調はキツいが、あたたかい感情が含まれている気がした。すくっと立ち上がるとガリアーノの顔を見た。

暗くて何も見えない。

でも、笑っている気がした。

ひたすら駆けた。子供たちを助けるために。

どうやらキュラソーは行ったようだ。

己のいる方は、運悪く転がりだした方の車輪だったらしい。ズルズルと滑り落ちる感覚が、身体を襲う。

手を伸ばし何とか柵に捕まった。

キュラソーの暖かな手を思い出す。

そしてひとり呟いた。

「さようなら…キュラソー…“ ”。」

自分だけが知っている彼女の真名を。