こういうのが読みたい4 (ページ10)

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無題6 □めめラウページ10

『5月の海は、まだ冷たかった』

先日の雨が原因か、熱を出した。

熱を出すと決まってみる夢がある。それは、あの時も同じく熱を出していたからだ。きっと。そして、これからも熱を出す度に見続けるのだろう。

ベッドに寝転んだ視界に広がるは、白い壁紙の天井。目を瞑っても聞こえるのは、お喋りなラウの声。

町外れの7畳のワンルーム。
それが俺らの世界。

あの時、なんで熱を出したか覚えていない。ただ、ぼーっとする頭で、今よりもまだ小さいラウを抱えていた。

服や物やらで散らかった床に座り込み、ベランダに続く、この部屋唯一の窓の外。広がる青空を眺めていた。タオルケットと、それに包まれた温もりの感触を覚えている。ということは、この頃からラウはそれを手放せなくなった。

体の熱を下げようにも、冷えピタや氷枕なんてこの家には無いし、買いに行こうにも俺の異変を感じたラウが離れなくなったし、頼れる誰かもいない。

あと、治そうという気力もない。

窓の外、空から視線を下に移して、家を掻き分けた遠くに光の反射がある。海が近くなところは、この家のお気に入りポイント。

「…ねぇ、ラウ、あそこ行こうか」

抱き上げながら海を指さした。賛成だ、と腕の中が嬉しそうに揺れる。

最初は気分転換のつもりでだった。あんな事になるなんて、彼を抱いて家の鍵を閉めた時は、毛頭考えていなかった。